
発行から流通へ広がるST市場
大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)が、セキュリティ・トークン(ST)の二次流通市場「START」で売買取引を開始したのは2023年12月。日本のST市場はその後も拡大し、発行市場に加えて、二次流通や決済を支えるインフラの整備へと議論が広がっている。
2025年8月22日に大阪で開催された「WebX Fintech EXPO」でも、STやステーブルコイン、RWA(現実資産)のトークン化などが主要テーマとなった。同日には、金融・証券各社によるステーブルコインを活用したDvP決済の実証プロジェクトも発表されている。STを発行する仕組みから、取引後の決済まで含めた市場基盤へと関心が移り始めた格好だ。
発行額は累計1938億円超
国内・公募のST市場は、2025年7月末時点で累計発行額が1938億円を突破した。不動産STを中心に市場が形成されてきた一方、発行規模の拡大に伴い、二次流通でどのように取引機会を増やすかも課題となっている。
ODXのSTARTでは不動産STなどの取引が行われており、ステーブルコインを活用して証券会社間の決済を効率化する取り組みも始まった。発行商品の拡大に加え、売買や決済を含めた市場全体の利便性をどこまで高められるかが、次の成長を左右しそうだ。
北尾SBI会長「金利以外の価値を」
SBIホールディングスの北尾吉孝会長は8月22日に大阪で開かれたWebX Fintech EXPOで、ST市場の拡大に触れ、「金利以外の付加価値を考える必要がある」と指摘した。投資家に利回りを提示する従来型の商品設計に加え、発行企業と投資家との新たな接点を生み出す仕組みも選択肢になるとの考えだ。
その例として紹介したのが、カゴメが2023年に発行したデジタル特典付き社債だ。同社は購入者に野菜飲料「つぶより野菜」を特典として提供した。金融商品に企業の商品やサービスを組み合わせる手法は、投資家に金利とは異なる価値を提示する一つの試みといえる。
北尾会長はDigiFTなど海外のデジタル資産事業者との連携にも言及した。国内市場の拡大とともに、RWAのトークン化やオンチェーン取引を通じ、海外市場との接続をどのように構築するかも今後の焦点となる。
光電融合技術で処理効率化
STを含むデジタル金融を支える技術として、北尾会長はNTTが進めるIOWNや「光電融合」技術にも言及した。光電融合は、電子技術と光技術を融合し、通信やデータ処理の高速化と低消費電力化を目指す技術だ。
NTTは2030年度以降のIOWN4.0で、電力効率100倍、大容量化125倍、遅延200分の1を目標としている。ブロックチェーン上で取引や決済を処理する機会が増えれば、それを支える通信・計算基盤の性能も無視できない。金融サービスのデジタル化は、証券や決済システムから、その裏側にある通信・計算基盤まで競争領域を広げている。
「発行する市場」から「使える市場」へ
日本のST市場は発行規模を拡大する一方、二次流通や決済といった次の課題に向き合い始めている。STARTによる流通市場の整備に加え、ステーブルコインを利用したDvP決済の実証が進めば、ST発行後の取引環境にも変化が生まれる可能性がある。
商品設計では投資家との新しい関係づくりが模索され、技術面ではブロックチェーン、ステーブルコイン、通信・計算基盤と複数の仕組みが結び付き始めた。発行額を積み上げる市場から、売買しやすく効率的に決済できる市場へ移行できるか。STを投資商品にとどめず金融インフラの一部へ発展させられるかが、日本市場の次の焦点となりそうだ。

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