
N CLIが企業の承認フローとAIを接続
ブロックチェーン関連のソフトウェアやゲームを開発するdouble jump.tokyoは2026年4月2日、企業向けウォレット「N Suite」の操作インターフェース「N CLI」の提供開始を発表しました。AIエージェントがコマンドライン経由で取引を申請し、担当者による承認・署名を経てブロックチェーン上で実行する仕組みです。企業の資産管理にAIを取り入れる際、既存の承認体制を活用できる点が焦点になります。
N Suiteは、複数人による申請・承認フローと秘密鍵管理機能を備えた企業向けサービスです。N CLIは、この基盤にAIからの操作経路を追加するため、導入企業は従来の運用ポリシーや承認体制を引き継ぎながらAI連携を進められます。AIに任せる業務と、人が責任を持って確認する業務を分ける設計といえます。
具体的には、AIがN CLIを通じてトランザクションの実行を申請すると、担当者がN Suite上で内容を確認し、承認または却下します。承認後は自動的に取引が実行されるHuman-in-the-Loop型の運用で、取引の申請から実行までの工程に人間の判断を組み込みます。
AIウォレット開発の流れに企業の統制を組み込む
AIとブロックチェーンを組み合わせる開発は、すでに海外でも進んでいます。Coinbaseは2024年11月8日に「AgentKit」を発表し、AIエージェントによるトークン送付や交換、スマートコントラクトとのやり取りを支援する開発基盤を公開しました。AIが情報を分析して提案する段階から、資産を動かす処理まで担うための環境整備が進んでいることが分かります。
こうした仕組みを企業の業務に取り込む際には、操作できる範囲に加え、取引内容を誰が確認するかが重要になります。double jump.tokyoも発表で、操作を許可した主体や範囲、時点を記録・制御する必要性を挙げています。N CLIは、AIによる取引申請を社内の承認手続きにつなぐ仕組みとして、企業向けウォレットの用途を広げるものと位置付けられます。
同社によると、N CLIは特定のエージェント開発フレームワークに依存せず、OWS(Open Wallet Standard)にも対応します。企業にとっては、AIの開発環境と資産管理の仕組みを組み合わせる選択肢につながります。ただし、実務での効率は取引の申請方法や承認者の確認作業にも左右されるため、自動化によって減らせる業務を具体的に見極めることが導入時の論点になるでしょう。
秘密鍵の保護と取引内容の確認を分けて考える
資産管理の基盤には、N SuiteのMPC(Multi-Party Computation)を用います。同社の説明では、秘密鍵を構成する複数のキーシェアを物理的に異なる環境に分散し、署名を生成します。TEEと呼ばれる保護された実行環境も活用し、AIエージェントが動くプロセスから署名に必要な情報を分離する構成です。
この設計を理解するうえでは、鍵を守る仕組みと、取引の妥当性を確かめる仕組みの役割を分ける必要があります。MPCによる保護は秘密鍵管理に関わり、人間の承認は申請された取引内容の確認を担います。鍵が適切に管理されていても、送付先や金額、操作対象の確認は重要であり、両方を組み合わせて企業の資産操作を管理することに意味があります。
そのため、導入時にはAIが作成した申請について、承認者がどの情報を確認し、どの基準で実行を認めるかを整理することが求められます。例えば送金業務では、送付先と金額を照合できる運用が重要です。N CLIによる省力化を実務に結び付けるには、申請処理の自動化と、担当者が内容を把握できる確認手順を一緒に設計する必要があると考えられます。
ステーブルコイン運用へつながる手数料対応
N Suiteとステーブルコインの接点は、今回の発表に先立って築かれています。JPYCは2025年9月18日、N Suiteが日本円建てステーブルコイン「JPYC」に標準対応すると発表しました。法人の入出金・送受金を複数担当者の承認フローで扱う基盤に、AIからの取引申請を組み合わせるという流れです。
double jump.tokyoは今後、EIP-7702とERC-4337に基づくPaymaster機能を提供し、JPYCやUSDCでガス代を支払えるようにする方針です。Paymasterは利用者に代わって手数料を負担する仕組みで、トークンによる費用精算にも利用できます。実現すれば、利用企業が手数料のためにETHなどを別途保有・補充する運用の負担を軽くすることにつながります。
同社はパートナーとの共同セミナーや、活用例を示す自社プロダクトの開発も予定しています。次に注目されるのは、企業のどの業務で申請の自動化が有効に働き、人による確認と両立できるかです。送金や資産管理の具体的な運用例が示されれば、企業がAIに任せる範囲を検討するうえでも、導入後の業務像を描きやすくなります。

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