日本のステーブルコイン、貸付・償還機能を加えたJPYCの現在地 日本が円建てステーブルコインを中心に、金融システムのデジタル転換を加速させている。
Web3産業を新たな成長軸と位置づけた政府が、ステーブルコインを国家戦略レベルに引き上げたことが背景にある。2020年の資金決済法施行以降、複数回の改正を経て2023年にステーブルコインが法制度上に正式に位置づけられた。これにより、民間フィンテックからメガバンク、信託銀行まで、多様な発行モデルの実証実験が本格化している。 日本でステーブルコインを発行できるライセンスは、 ①資金移動業 ②信託業 ③銀行業 の三つに区分される。それぞれ異なる制度設計のもとで、主要プレーヤーが動きを見せている。
資金移動業を取得したJPYC、デジタル資産に不慣れな層も関心
株式会社JPYC(代表取締役:岡部典孝)は、10月27日付で資金移動業ライセンスに基づく円建てステーブルコイン「JPYC」の発行を正式に開始した。
JPYCの最大の特徴は、パブリックチェーン上で発行されている点にある。 Ethereum、Polygon、Avalancheなど複数のネットワーク上で展開されており、分散型取引所(DEX)やDeFiプロトコルでも活用できる。これは、今後本格化する信託業・銀行業モデルと大きく異なるポイントだ。 データ分析サイト「Dune Analytics」によると、JPYCの総発行量は約12億円。そのうち直近1週間で発行された金額は約1億777万円、保有アドレス数は3,681件に達している(2025年11月1日時点)。
JPYCの公式アプリを通じ、日本の身分証を保有する個人および法人が発行を行うことができる。発行後の送受信・取引は自由だが、発行自体は日本居住者に限定されており、KYCおよびモニタリング体制が継続的に運用されている。
「第2のJPYC」誕生は当面難しく、政府も育成姿勢
一部では、米ドル建てステーブルコインと比較して発行ペースや流動性が低いとの見方もあるが、市場関係者の多くは「JPYCは規制親和的なモデルであり、政府も積極的に育成していく可能性が高い」との見方を示す。 実際、当面は同様のライセンスを取得する新規事業者の登場は限定的とみられ、競合は国内ではなく、むしろPayPalなど海外決済企業との比較対象として意識されている。
ある関係者は「円は国際的な基軸通貨であり、長期的な需要は確実に存在する。貸付・償還機能が追加されたことで、円キャリートレードやファミリーオフィス、ヘッジファンド、個人トレーダーの間でも注目度が高まっている」と語る。 円安と低金利環境を背景に、JPYCを担保に借り入れを行い、他のデジタル資産やドル建てステーブルコインにスワップして運用する――いわゆる「円キャリートレード」的な構造は、発行前から最も注目されたユースケースの一つだった。
また、 岡部代表は「AIエージェンシー(人工知能代理業務)の決済手段としてもステーブルコインの活用が広がるだろう。3年以内に発行残高10兆円を見込んでいる」と語っている。
新規ユーザー層の拡大、デジタル資産市場の入口に
保守的とされる日本市場において、デジタル資産に不慣れなユーザーが増加している点も注目される。 業界関係者によれば、JPYCの発行や利用に関する問い合わせの中には、これをきっかけに暗号資産市場へ初めて足を踏み入れるケースも少なくないという。 JPYCの登場は、日本におけるデジタル資産エコシステムへの参入障壁を下げる触媒となっている。規制整合性の高い設計を武器に、今後ステーブルコイン市場の標準モデルとして定着するか注目が集まる。

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