
海外のWeb3やブロックチェーン関連ニュースを見ていると、「日本居住者は対象外」「日本では提供されない」といった注記を目にすることが多少ありますよね。利回りを得ながら取引に使えるトークン、国債をトークン化してDeFiで運用する仕組み、DAOによる資金管理など、海外ではすでに実用段階に入っているとされる取り組みが、日本では限定的、もしくは導入に慎重な姿勢が取られている例も少なくありません。
こうした状況は、日本のWeb3が技術的に遅れているからなのでしょうか。それとも、別の理由があるのでしょうか。本記事では、あくまで筆者自身の視点として、海外では一般化しつつある一方で日本では対応が難しい代表的なWeb3・暗号資産の事例を5つ取り上げ、なぜ日本では実現できないのか、その背景を整理します。
① 利回りを生む暗号資産を証拠金として使うこと
海外の暗号資産取引所では、ステーキングやレンディングなどで利回りを生む暗号資産を、そのままデリバティブ取引や証拠金取引に利用できる仕組みが広がっています。たとえば、USDTやUSDCを運用型プロダクトに預けた状態のまま、取引の担保としても活用できる設計です。近年では、利回り付き資産をトークン化し、証拠金として扱う商品も登場しています。 こうした仕組みのメリットは、資産を「運用」と「取引」に分断せず、同時並行で使える点にあります。通常、証拠金として預けた資産は単なる担保として固定され、利回りを生まないケースが一般的ですが、海外では資金効率を高めることが重視されています。特にプロトレーダーや機関投資家にとっては、資金の遊休を減らせる点が大きな魅力です。
一方、日本では、証拠金として利用される資産は、価格変動リスクを前提とした担保資産として整理されてきました。そこに利回りが発生する仕組みを組み込む場合、顧客資産の分別管理や評価方法、リスク算定の在り方について追加的な整理が必要になると指摘されています。また、利回りの発生によって金融商品としての性質が強まる場合、金融商品取引法や銀行法との関係が論点となることもあります。こうした理由から、日本では利回りを伴う資産を証拠金として扱う仕組みについて、実務面・制度面の双方で慎重な検討が求められている状況です。
② 暗号資産レンディングの自由な商品設計
海外の暗号資産レンディング市場では、金利タイプ、ロックアップ期間、途中解約可否、DeFiとの連動など、商品の設計自由度が非常に高いのが特徴です。レンディング中の資産を担保に別の取引を行ったり、利回りを再投資したりと、資金効率を最大化する設計が一般化しています。
一方で、日本でもbitFlyer、BITPOINT、VC Tradeなどが暗号資産レンディングサービスを提供しており、「日本にはレンディングが存在しない」というわけではありません。実際、貸し出した暗号資産そのものを利息として受け取るケースもあれば、円建てで利息を受け取るケースもあります。 それでも海外ほど広がっていない背景には、提供形態によって銀行業や金商法との関係が問題になりやすいことや、商品設計の自由度が制度的に制限されやすいことが考えられます。 個人的には、日本でもできてはいるが、なぜ爆発的に広がらないのかという視点で見ると、制度リスクを極力避ける設計にならざるを得ない点が、結果として海外との差につながっているように感じます。
③ トークン化された株式・債券(RWA)をDeFiで使うこと
海外では、実世界資産(RWA:Real World Assets)をブロックチェーン上でトークン化し、DeFiで活用する動きが急速に進んでいます。象徴的な事例として、BlackRockが関与する米国債トークン「BUIDL」が挙げられます。国債の信用力とオンチェーン運用を組み合わせることで、機関投資家向けDeFiの現実味が高まったと受け止められています。
日本では、RWAは主にセキュリティトークン(ST)として整理され、有価証券規制の枠組みで扱われます。そのため、DeFiと自由に組み合わせることは現時点では難しい状況です。ただし最近では、日本でも「機関投資家向け」「規制親和的」なDeFiを目指す動きが見られます。この文脈では、RWA×DeFiは将来的に期待できる分野だと感じますが、少なくとも現時点では慎重な議論が必要で、無秩序なDeFi展開とは一線を画す形になるでしょう。結局のところ、日本で成立するのは規制親和的DeFiというポジションに限られる可能性が高いと考えています。
④ ステーブルコインをDeFiや取引で自由に使うこと
USDTやUSDCは、海外では暗号資産取引・DeFiの基盤的な役割を担っている存在です。担保、決済、運用といった多くの場面で使われ、複数チェーンを跨いで自由に移動できます。
日本でもJPYCのようにパブリックチェーン上で自由に流通している事例はありますが、日本居住者が実際に購入・利用できるステーブルコインは現状ではUSDCやJPYCなどごく限られています。選択肢が少ないため、市場全体として厚みが出にくい点は否めません。 制度整備が進んだこと自体は大きな前進ですが、海外と比べると使えるステーブルコインの幅がまだ狭いという点は、今後の課題だと感じます。
⑤ DAOによる資金調達と意思決定
海外ではDAO(分散型自律組織)がトークンを通じて資金を集め、投票によって意思決定を行う組織形態として定着しつつあります。プロトコル開発、投資ファンド、クリエイター支援など、さまざまな分野でDAOが実質的な組織として機能しています。DAOでは、中央管理者を置かず、スマートコントラクトとコミュニティの合意によって運営が行われます。資金の流れや意思決定プロセスがオンチェーンで可視化される点も特徴です。
一方、日本ではDAOの法的位置付けが依然として明確ではなく、過去には平将明氏が中心となり、DAOをテーマにしたセミナーが複数回開催されたこともあり、議論自体は進められてきました。しかし、法人格や責任の所在、税務処理といった根本的な論点はまだ整理途上にあります。 その結果、日本ではDAO単体で完結する形ではなく、既存法人と併用するケースが多く、DAO本来の分散性が生かしきれない状況が続いています。
日本でWeb3の新しい仕組みが広がりにくい背景には、技術力の問題というよりも、制度設計における考え方の違いがあります。海外が「まず動かし、問題があれば調整する」スタンスであるのに対し、日本は「枠組みを明確にしてから進める」姿勢を重視します。これは利用者保護や制度の安定性という点では日本の強みでもありますが、実験的な仕組みが生まれにくい要因にもなっています。今後、日本がどのような形でWeb3を取り入れていくのかを考える上で、「なぜできないのか」を冷静に理解することが、次の一歩につながるのではないでしょうか。

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