
暗号資産の中でも、ビットコインやイーサリアムとは異なり、価格の安定性を特徴とするのが「ステーブルコイン」です。そのステーブルコインの歴史の中で、最初に登場したのがUSDT(Tether)です。
USDTは2014年に誕生し、以来10年以上にわたってステーブルコイン市場をリードしてきました。現在では、暗号資産市場全体の基軸通貨的な存在となっており、日々数十兆円規模の取引に使われています。
取引所間の送金をはじめ、DeFi(分散型金融)やインフレが進む新興国での実際の決済利用まで、USDTの用途は世界中で拡大を続けている一方で、「裏付け資産の透明性」や「各国での規制対応」 をめぐっては、長年にわたり議論が続いてきました。
本記事では、USDTの誕生背景から仕組み、各国の規制動向、そして直面する課題を2回に分けて整理し、なぜこの通貨が世界のデジタル経済に欠かせない存在となったのかをわかりやすく解説します。
USDTとは ― 「1USDT=1ドル」を目指す世界初のステーブルコイン
USDT(Tether)は、1枚あたり1米ドルの価値を維持することを目的に設計された世界初のステーブルコインです。発行主体は英領ヴァージン諸島に拠点を置くTether Limited(テザー社)で、その親会社は暗号資産取引所「Bitfinex」を運営するiFinex Inc.です。USDTの開発は2014年、Brock Pierce、Reeve Collins、Craig Sellarsの3名によって「Realcoin」という名称でスタートしました。その後、同年10月にはビットコインのOmni Layerプロトコル上で最初のトークンが発行され、11月に現在の名称である「Tether」へ名称が変更されました。
開発当初の目的は、暗号資産と法定通貨をつなぎ、ブロックチェーン上で安定した価値交換を実現することでした。特に、取引所間の資金移動やドル建ての決済をより迅速かつ効率的にすることを目指して設計されています。
Tether社は、発行済みUSDTの総量を裏付ける資産(主に現金、短期国債など)を保有していると説明しており、理論上、ユーザーが1USDTを1米ドルで償還できる仕組みです。2014年の発行以来、USDTは市場で急速に拡大し、現在では時価総額・流通量ともに世界最大のステーブルコインとなっています。
参考:
What Is Tether? The Company Behind USDT | CoinMarketCap
USDTの仕組みと裏付け資産
Tether社は、「1USDT = 1米ドル」の価値維持するため、発行済みUSDTに相当する資産を準備金(リザーブ)として保有しています。この準備金には、現金や米国の短期国債をはじめ、オーバーナイトリバースレポ、マネーマーケットファンド、銀行預金など、流動性が高く安全性の高い資産が含まれています。
2025年第1四半期の監査報告によると、2025年3月31日時点のTether社の準備資産総額は約1,492.7億ドルに達し、発行済みUSDT(約1,436.8億ドル)を上回っています。そのうち現金同等の流動性資産は全体の約81%強を占め、特に米国短期国債だけで約985.2億ドルにのぼります。
一方で、Tether社は一部担保付きローン(Secured Loans)やRWAへの投資にも回しており、必ずしもすべて現金で裏付けされているわけではありません。こうした構成によって、「ドルとほぼ同等の価値」を保ちつつ運用益も確保するというバランスを取っています。Tether社は資産内容を四半期ごとに「アテステーション(保証報告)」として公表しており、2025年1Qの報告書では、監査法人BDO Italiaが「重要な誤りなく公正に提示されている」と意見を付けています。こうした定期的な開示体制により、透明性と市場の信頼確保を目指しています。
参考:
Tether Releases Q1 2025 Financial Attestation Under El Salvador Oversight
10年以上にわたり市場を支えてきたUSDTは、いまや「ブロックチェーン経済の土台」と呼ばれる存在です。その安定性と即時性は、取引所だけでなく、金融アクセスが制限された地域においても新しい経済活動を生み出しています。一方で、世界各国の規制当局はその影響力の大きさに注目し、ステーブルコインの枠組みを再定義しようとしています。次回の後編(1-2)では、USDTをめぐる各国の法整備、世界におけるUSDTの位置づけ、そしてTether社が抱えている課題について紹介します。

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