
ブロックチェーンは、ビットコインやイーサリアムの登場から10年以上が経ち、いまや多くの人にとって「聞いたことのある技術」になりました。しかし、実際に使ってみると「遅い」 「手数料が高い」 「仕組みが難しい」と感じた人も多いのではないでしょうか。こうした課題を根本から見直し、「高速・低コスト・使いやすさ」をすべて備えた次世代のチェーンとして登場したのがSui(スイ)です。
この記事では、Suiのメインネットを中心に、その技術の仕組みから、経済構造、そして広がるエコシステムまでをわかりやすく解説します。「とりあえずSuiって何?」という人でも、読み終わるころにはその魅力がスッキリ理解できるはずです。
1.はじめに ― ブロックチェーンの新たな主役、Sui
近年、ブロックチェーンの世界で急速に存在感を高めているのが「Sui(スイ)」です。SolanaやEthereumといった既存のチェーンが成熟するなか、次世代の基盤として誕生した新しいL1がSuiです。その開発を担うのはMeta(旧Facebook)のLibra/Diemプロジェクト出身者によって設立されたMysten Labs(マイステン・ラボ)。
彼らは、誰でも簡単に使えるWeb3を目指し、これまでのブロックチェーンが抱えていた速度、コスト、複雑さの課題を根本から再設計しました。Suiは高性能、低コスト、使いやすさの3拍子を兼ね備えた、新時代のチェーンとして注目を集めています。
2.ブロックチェーンの基本構造 ― なぜメインネットが重要なのか
まず理解しておきたいのが、ブロックチェーンにおける「メインネット(Mainnet)」の存在です。これは、実際に資産の受送信やNFT発行、DeFi(分散型金融)などが動く本番環境を指します。開発段階で動作検証を行うテストネットとは異なり、メインネット上の取引は全て実際の価値を持ちます。したがって、Suiのメインネットが正式に稼働したということは理論から実用へと一歩進んだことを意味します。
3.Suiの核心技術 ― 速くて効率的な理由
Suiが特に注目される理由の一つは、取引処理の圧倒的な速さにあります。秘密は、Sui独自の 「並列処理(Parallel Execution)」 構造にあります。従来のブロックチェーンでは、すべてのトランザクションを1つずつ順番に処理するため、混雑が発生しやすいという課題がありました。Suiでは、相互に依存しない取引を同時並行で処理することで、圧倒的なスループットを実現しています。
また、Suiはガス代(手数料)を安定的かつ低く抑える仕組みを持ち、ユーザーが高騰に悩まされることも少ない設計です。さらに、プログラミング言語には「Sui Move」を採用しましたが、これはMetaのMove言語をベースにSui向けに改良したもので、安全性と柔軟性を両立しています。
4.ユーザー中心の設計 ― ウォレットなしで始められる体験
Suiのもう一つの特徴は、ユーザー体験(UX)を重視していることです。これまでのブロックチェーンは、ウォレットの直接操作や秘密鍵の管理など、初心者にはハードルが高いものでした。Suiは「アカウント抽象化(Account Abstraction)」の考え方を採用し、まるでWeb2のようにログインしてすぐ使える体験を提供します。
例えば、ゲームやSNSアプリのように、ウォレットを意識せずにDAppを利用できるのです。これにより、Web3初心者でもスムーズに参加できる設計となっています。
5.拡大するSuiエコシステム ― 集まる新プロジェクトたち
Suiのメインネットが立ち上がってから、エコシステムは急速に拡大しています。代表的なプロジェクトとして、次のような例があります。
・XOXIETY:Sui上で展開される次世代Web3ゲーム
・NAVI Protocol:DeFiレンディングプラットフォーム
・Cetus:AMM型DEX(分散型取引所)
・Scallop:スケーラブルな金融基盤
さらに、日本や韓国などアジア圏でもパートナーシップが活発化しています。GAMIESやWEB3-ONなどのアジアのプロジェクトが続々とSuiを採用中です。
2025年には日本のGAMIESがSuiと連携し、ベトナムでリアルイベント「Web3 Game Night」を開催しました。Sui上のゲーム体験をより多くのユーザーに広める取り組みとしてコミュニティの注目を集めました。
参考:GAMIES、世界的ブロックチェーンSuiと連携しベトナムでリアルイベント「Web3 Game Night」を開催
また、Suiは国際的な金融分野にも領域を広げています。2025年10月には、EthenaおよびBlackRockが支援する2種類のネイティブステーブルコインを、Suiネットワーク上で発行する計画を発表しました。 一つはUSDiで、BlackRockのトークン化マネーマーケットファンド(BUIDL)を担保とし、もう一つはsuiUSDeで、デジタル資産とデリバティブを基盤とした合成ドル型ステーブルコインです。
参考:Sui Blockchain to Host Native Stablecoins Backed by Ethena and BlackRock's BUIDL
これにより、SuiはゲームやNFTといったエンタメ分野にとどまらず、実世界資産(RWA)や決済分野でも存在感を高めています。
6.経済構造 ― SUIトークンの役割と価値
Suiネットワークの中心にあるのが、ネイティブトークン「SUI」です。その主な役割は次の3つです。
・トランサクションの手数料支払い
・検証者(バリデータ)への報酬とステーキング
・ガバナンス投票(ネットワーク運営への参加)
Suiは、適度なインフレーションモデルを採用しながらも、ステーキングを通じて長期的にトークンの価値安定を図る構造を持っています。
7.コミュニティと開発者支援 ― 誰でもビルドできる環境
Suiの強みは、開発者に優しいエコシステムにもあります。Mysten Labsは積極的に支援プログラムを展開しており、例えば「Sui Builder Grant」、「Hackathon(ハッカソン)」といった仕組みを通じて、誰でもSui上で新しいサービスを作れる環境を備えています。また、グローバルにコミュニティが拡大しており、アメリカ、韓国、日本などの各国でローカルハブが形成され、情報交換や共同開発が進んでいます。
8.今後の展望 ―「Mass Adoption」への道
Suiの次なる目標は、Web3の大衆化(Mass Adoption)です。そのために、技術ではなく使いやすさを最優先にしたUX戦略を進めています。すでに、ゲーム企業や決済サービス、RWA分野の企業との協業も始まっており、Sui技術が裏側で動くインフラとして、生活の中に自然に溶け込む未来が見え始めています。
Suiが掲げるビジョンは、「ブロックチェーンを見えなくすること」です。つまり、ユーザーが意識せず使っている裏で、Suiが信頼とスピードを支えている世界です。
「使いやすいブロックチェーン」という真の革新
Suiがもたらす革新は、ただの技術力の進歩ではありません。それは、ユーザーが意識せず使えるブロックチェーンという新しい概念です。L1やL2といったレイヤー構造の議論を超えて、Suiは日常に自然に馴染むWeb3を実現しようとしています。もしかすると、数年後にはこう言われる日が来るかもしれません。
ブロックチェーンが分からなくても、とりあえずSuiを使えばいい。
それこそが、Suiが目指す「使いやすさこそ最大の革新」という理念なのです。

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