
ステーブルコインの規制と信頼【Part1:米国・欧州・日本】編
ステーブルコインは、法定通貨などに価格を連動させることで価値の安定を目指すデジタル資産です。ブロックチェーン上で送付できる利便性がある一方、発行体が十分な裏付け資産を保有しているか、利用者が額面どおりに償還を受けられるかといった問題もあります。
こうしたリスクに対応するため、米国、欧州連合(EU)、日本では、発行体の資格や準備資産、情報開示などを定める制度の整備が進みました。
本記事では2025年11月時点の状況を基準に、3地域がステーブルコインの信頼性をどのような仕組みで確保しようとしているのかを比較します。
米国 ― GENIUS Actで発行体と準備資産を規制
米国では2025年7月18日、「Guiding and Establishing National Innovation for U.S. Stablecoins Act」、通称GENIUS Actが成立しました。米国で決済用ステーブルコインを発行する事業者に対し、連邦または州の制度に基づく認可や監督を求める法律です。
発行体は、流通するステーブルコインの額に対して1対1以上となる適格準備資産を保有する必要があります。準備資産として認められるのは米ドルの預金や短期国債など、流動性が高い資産です。
発行体には準備資産の構成に関する情報開示も求められます。発行体が破綻した場合には、ステーブルコイン保有者の請求権をほかの一般債権者より優先して扱う規定も設けられました。
ただし、この優先弁済制度は、銀行預金と同じ預金保険がステーブルコインに適用されることを意味するものではありません。利用者保護を強化しながらも、銀行預金とは異なる金融商品として制度を構築している点には注意が必要です。
GENIUS Actは、米国外で発行されたステーブルコインを米国内で取り扱うための条件も定めています。外国の規制制度が米国の制度と比較可能かを確認する枠組みを設け、国境を越えて流通するステーブルコインにも対応しようとしています。
米国の制度は、発行体の資格、準備資産、情報開示、破綻時の利用者保護を一つの連邦法で整理したことに特徴があります。一方、連邦制度と州制度の役割分担や、既存の発行体が新制度へ移行する際の実務対応は引き続き重要になります。
欧州 ― MiCAによる域内共通ルール
EUでは、暗号資産市場規制「MiCA(Markets in Crypto-Assets Regulation)」が暗号資産の発行や関連サービスに関する域内共通ルールを定めています。
ステーブルコインに関係する資産参照型トークンと電子マネートークンの規定は2024年6月30日から適用され、暗号資産サービス事業者などに関する主要規定は同年12月30日から適用されました。
MiCAでは、ステーブルコインの発行者に認可、準備資産の管理、情報開示、償還対応などを求めています。EU加盟国ごとに異なる制度へ個別対応するのではなく、域内で共通する規制基盤を設けることで、利用者保護と市場の健全性を確保する狙いがあります。
実務上の課題として指摘されているのが、MiCAと既存の決済サービス規制であるPSD2との関係です。電子マネートークンを使った一部のサービスがPSD2上の決済サービスにも該当する場合、暗号資産サービス事業者に複数の認可が必要になる可能性があります。
欧州銀行監督機構は2025年6月、長期的にはMiCAと決済サービス規制による二重認可を避ける必要があるとの見解を公表しました。これは、EUの共通ルールが整った後も、既存の金融規制との調整が必要であることを示しています。
EUはステーブルコインを域内で流通させるための共通条件を先に整え、その後に監督や認可の実務を調整する方式を採っています。発行体だけを対象とするのではなく、暗号資産サービス事業者を含む市場全体を一つの枠組みで扱う点が特徴です。
日本 ― 電子決済手段として法的に位置付け
日本では、2023年6月1日に施行された改正資金決済法によって、法定通貨建てステーブルコインに対応する「電子決済手段」の制度が始まりました。
制度上、電子決済手段を発行できる主体は、銀行、資金移動業者、信託会社など、金融規制の対象となる事業者に限られます。発行主体を限定し、利用者から受け入れた資金や裏付け資産を適切に管理させることで、償還の確実性を確保する考え方です。
また、電子決済手段の売買や交換、利用者のための管理などを事業として行う場合には、電子決済手段等取引業者としての登録が必要です。発行と流通・仲介を分け、それぞれの事業者に規制を適用する構造となっています。
制度を利用した事例として、JPYC株式会社は2025年8月18日付で資金移動業者として登録され、同年10月27日に日本円建てステーブルコイン「JPYC」の発行を開始しました。
同社の説明によると、JPYCは日本円と1対1で発行・償還され、発行残高の100%以上に相当する裏付け資産を預貯金と国債で保全します。発行と償還は専用プラットフォーム「JPYC EX」を通じて受け付けます。
JPYCはEthereum、Avalanche、Polygonに対応し、事業者や開発者が決済や送金サービスへ組み込むことを想定しています。法制度の整備後、円建てステーブルコインが実際に発行・償還される段階へ移った事例といえます。
日本の制度は、発行主体を金融規制下の事業者に限定したうえで、電子決済手段としての法的位置付けを明確にしている点に特徴があります。制度の安全性を重視しながら、ブロックチェーン上の決済や企業間精算などへの利用を進める構成です。
3地域で異なる信頼性の確保方法
米国、EU、日本はいずれも、ステーブルコインの価値を支える資産と、額面での償還を担う発行体を規制の中心に置いています。ただし、制度の対象と進め方には違いがあります。
米国は、決済用ステーブルコインの発行体を中心に、準備資産や破綻時の優先弁済を連邦法で定めました。EUは、発行体から暗号資産サービス事業者までを含む域内共通ルールを整備しています。日本は、電子決済手段という法的区分を設け、発行できる主体を既存の金融規制下にある事業者へ限定しました。
ステーブルコインの信頼性は、価格を法定通貨に連動させる仕組みだけで決まるものではありません。準備資産の内容、発行体への監督、情報開示、償還方法、破綻時の扱いまで確認する必要があります。
3地域の制度を比べると、同じステーブルコインという名称でも、発行体や利用者保護の仕組みには差があることが分かります。
次回のPart 2では、韓国、シンガポール、香港におけるステーブルコイン規制の進展を取り上げます。

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