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[ステーブルコイン] ステーブルコインの規制と信頼 ― 【Part2:韓国・シンガポール・香港】編

センチメンタルな岩狸

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前編(Part 1)では、米国・欧州・日本を中心に、ステーブルコインが「信頼」と「透明性」を基盤に制度化されていく動きを追いました。その流れは今、アジアにも広がっています。韓国、シンガポール、香港といった地域では、ステーブルコインを金融インフラの一部としてどう組み込み、国際競争力と金融安定の両立を図るかに注目が集まっています。各国・地域が置かれた政治・経済環境は異なりますが、「信頼できるデジタル通貨」をどう形にするかという課題に向き合っている点は共通しています。

この記事では、アジアの主要プレイヤーである韓国・シンガポール・香港の最新動向を通じて、ステーブルコインをめぐる「信頼の形」がどのように進化しているのかを見ていきます。


韓国 ― デジタル資産基本法へ向けた準備段階

韓国では現在、ステーブルコインの法的位置づけと監督体制を明確にするため、「デジタル資産基本法」の整備が進んでいます。政府はウォン建てステーブルコインの発行を促しつつ国際展開も視野に入れていますが、中央銀行であるBank of Korea(BOK)は通貨・金融政策への影響を懸念し、依然として慎重な姿勢を崩していません。

政府・与党は当初、2025年10月の法案提出を目標としていましたが、現時点では関連法案は国会での審議準備段階にとどまっています。すでに複数の議員や金融委員会(FSC)から案が示されており、その多くはウォン建てステーブルコインの発行・管理ルールを含む包括的な制度設計を目指す内容です。

検討中の枠組みでは、発行企業に対して資本要件や準備金の全額保全、内部統制体制の整備などが義務づける見通しです。一方で、BOK副総裁は「ステーブルコインの発行はまず銀行を通じて段階的に進めるべきだ」と述べており、非銀行系企業の参入拡大が金融政策や為替管理に及ぼす影響については依然として警戒感を示しています。

こうした議論を踏まえ、韓国政府は「国際基準と整合しながら、安全で信頼性の高いステーブルコイン市場を構築する」という方向性を明確にしており、現在は米国や欧州の制度を参照しつつ、国内事情に合った法制度の具体化が実務レベルで進められています。

参考:

BOK chief says he is not against won-based stablecoins but has forex concerns | Reuters

韓国のステーブルコイン規制:3つの立法案とウォン建てコインの行方


シンガポール・香港 ― アジア先進地の挑戦と制度設計

アジアの金融ハブとして知られるシンガポール(Monetary Authority of Singapore:MAS)香港(Hong Kong Monetary Authority:HKMA)は、ステーブルコインの制度化において世界でも先進的な取り組みを進めています。両地域は共通して「ステーブルコインを単なる暗号資産ではなく、金融インフラの一部として位置づける」姿勢を明確にしています。


シンガポール ― シングル通貨ステーブルコイン(SCS)フレームワークの実装

シンガポールでは、MASが2023年に「Single-Currency Stablecoin(SCS) Regulatory Framework」を正式に導入し、発行者の登録制度、裏付け資産の完全保全、償還義務、監査報告などを含む包括的な枠組みを整備しました。この制度の下では、SCS(例:USDやSGD連動型ステーブルコイン)を発行する事業者がMASからライセンスを取得する必要があります。裏付け資産は高流動性・低リスクの金融資産で100%保全され、監査報告は少なくとも年1回以上、第三者機関によって実施されることが義務づけられています。

この制度により、シンガポールはステーブルコインを国際送金・デジタル決済・トークン化証券決済といった金融分野で実用化するための「信頼の土台」を制度的に確立しました。MASはさらに、クロスボーダー取引に対応する「Project Guardian」を通じ、民間銀行・暗号資産企業との連携を進めており、シンガポールを東南アジアのステーブルコインハブとして位置づける戦略を打ち出しています。


さらに、2025年に入ると制度運用は実務段階へと移行しています。Linklatersの「Asia FinTech & Payments Regulatory Update」(2025年10月)によれば、MASは2025年第3四半期からSCS規制の「適用猶予期間」を段階的に終了させ、すでにCircle(USDC発行体)やStraitsX(SGDステーブルコイン発行体)といった主要事業者が正式ライセンスの下で運用フェーズに移行したと報告されています。一方で、DeFi分野での利用やクロスボーダー送金における課税・マネーロンダリング対策(AML)など、周辺制度の整備が今後の焦点となっています。

参考:

MAS Finalises Stablecoin Regulatory Framework

Asia Fintech and Payments Regulatory Update - October 2025 | Linklaters


香港 ― ステーブルコイン法の施行と中国の警戒感

一方、香港では2025年8月1日に「Stablecoins Ordinance(ステーブルコイン法案)」が施行されました。この法律により、法定通貨に連動するステーブルコイン(例:HKD、USD連動型)は、HKMAのライセンス制の下でのみ発行・運用が可能となり、裏付け資産の保全・監査・償還義務が法的に明確化されました。また、香港は「Same activity, same risks, same regulation(同じ行為には同じ規制を)」をスローガンに掲げ、暗号資産・金融サービスの境界をなくす統合的な規制設計を進めています。

ただし、この制度化の動きに対しては、一部で懸念も生じています。中国人民銀行(People’s Bank of China:PBoC)は2025年10月、「ステーブルコインは世界的な金融安定を揺るがす潜在的なリスクを持つ」と警告し、「香港を含む一部地域での制度化の動きに注視している」と表明しました。また、同銀行は「香港の新法が中国の通貨政策や為替管理に影響を及ぼす可能性がある」との見解を示しています。

この発言は、香港の金融政策の独立性と中国本土との関係に再び注目を集めるきっかけとなりました。とはいえ、香港政府は「国際金融センターとしての透明性と信頼性を高める」との立場を崩しておらず、ステーブルコインを将来的なデジタル金融インフラの柱として位置づけています。

参考:

HKMA to Regulate Stablecoins as Hong Kong Law Begins August 1 - CoinCentral

中国、暗号資産とステーブルコインへの監視を継続:アジアでは発行競争が加速 - Crypto Trillion


「信頼」を支える仕組み ― 透明性・保証・監査

各国の制度設計には共通点があります。それは、「信頼の確保」を中心に据えていることです。主な要素は次の3点です。

  1. 準備金の保全:裏付け資産を銀行口座または信託口座に100%保管
  2. 外部監査と定期報告:第三者監査機関による残高検証と公開
  3. 償還の保証:ユーザーがいつでも1:1で法定通貨に換金できる法的担保

これらは、暗号資産市場特有のボラティリティや不透明性に対抗し、ステーブルコインを安全に実用化できる通貨として社会に定着させるための基盤となっています。


制度化が進む「信頼の通貨」へ

ステーブルコインは今、投機の対象から制度として認められるデジタルマネーへと進化しています。米国、日本、アジアの主要国の規制整備は、単なる制約ではなく「信頼」を形成するためのインフラ整備でもあります。今後、国際的な相互運用性が確立されれば、ステーブルコインは国家や通貨の枠を超え、次世代の決済・送金基盤として世界経済の新たな中核を担う存在となるでしょう。

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