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DeFi時代のDEX規制事情 ― 米国・EU・日本の動向を徹底解説

センチメンタルな岩狸

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前回の記事では、ブロックチェーン上で銀行のような役割を果たす「分散型金融(DeFi)」について紹介しました。今回取り上げる分散型取引所(DEX)は、そのDeFiの中でも特に重要な要素で、暗号資産の交換やスワップを中央管理者なしで自動的に行えるという点が最大の特徴です。しかし、この「人がいない」 「運営主体が不明確」という仕組みは、規制面では大きな論点になります。

この記事では、米国・欧州(EU)・日本の3つの地域で、DEXがどのように受け止められ、どんな規制や議論が起きているのかを、具体的な事例を交えながらわかりやすく整理します。


なぜDEXは規制の対象になりやすいのか ― スマートコントラクト取引と規制のジレンマ

DEXは、注文から決済までの一連のプロセスがすべてスマートコントラクト上で完結するため、従来の「取引所」という枠組みと微妙にズレが生じます。こうした構造により、規制当局は複数の観点から注意を向けています。例えば、*レバレッジ取引や証拠金を扱う場合は商品・*デリバティブ規制の対象になり得ますし、扱うトークンの中に証券として判断されるものが含まれる可能性もあります。また、中央管理者がいないという特徴は、KYC・AMLの観点での*マネーロンダリング対策や、利用者保護の仕組みをどう確保するかという問題にもつながります。このように複数の視点が重なり合うことで、DEXは「どの法律で扱うべきか」「誰を規制対象とすべきか」といった根本的な議論が、各国で継続的に行われる状況になっています。

*レバレッジ取引: 少ない資金で大きな金額の取引を行う仕組み

*デリバティブ規制:価格に連動する先物やオプションなどを扱う際に適用される金融規制

*マネーロンダリング対策:犯罪資金の流れを追跡するため、取引の匿名性を制限する仕組み


米国:「個別事例で線引き」が進む一方、執行方針は変化中

米国では、SEC(証券取引委員会)とCFTC(商品先物取引委員会)という複数の監督当局がそれぞれの権限でDEXやトークンを精査しており、ルールは裁判や個別の行政処分を通じて徐々に形作られています。実例として、CFTCは2024年にUniswap Labsの特定レバレッジ型商品を問題視し、行政処分と和解を行いました。この事例は、「プロダクトの設計や運営実態次第では、分散的なプロトコルでも既存の金融規制が適用されうる」ことを示しています。

一方でSECはトークンの「証券性」を中心に調査を行ってきましたが、2025年にはUniswapに対する一部の調査が終了しており、すべてが一律に厳罰化するわけではないことも示されています。規制の実務は「個別判断」が基本で、ケースごとに結果が異なる点に注意が必要です。

参考:

CFTC Issues Order Against Uniswap Labs for Offering Illegal Digital Asset Derivatives Trading | CFTC

SEC Closes Investigation Into Uniswap Labs, Marking a Key Victory for DeFi Industry


さらに2025年には、司法省(DOJ)の執行方針にも大きな変化がありました。報道によれば、DOJは暗号関連プロジェクトの開発者への刑事対応を慎重化する方向性を示しており、これが実務上の「プロジェクト・開発者」への影響を和らげる可能性があります。ただし金融規制は依然としてSEC/CFTC等の行政ルートで運用されているため、営利的なサービス提供やユーザー向け機能の有無によってリスクは残ります。

参考:US DOJ to back off money transmitter cases in shift backed by crypto | Reuters


欧州(EU):MiCAで枠組みは整理されるが、完全分散型DeFiはまだ「未定」

EUでは、暗号資産市場の包括的な枠組みであるMiCA(Markets in Crypto-Assets Regulation)が施行され、市場全体を整理する方向で制度設計が進んでいます。(Level2/3 技術基準が確定済み、または検討中である。)しかし、MiCA自体は「完全に分散化されたDeFiプロトコル」を直接規制する前提では作られていません。そのため、DEXのスマートコントラクトそのものをどのように扱うかという点は、依然として議論が続いています。

さらに、EBA(欧州銀行監督局)とESMA(欧州証券市場監督局)が共同で出した報告では、DeFiに関する技術的・市場的リスク(例:マネーロンダリングのリスクやICTリスク、MEVの影響など)を整理しており、監督当局はこれらのリスクに対する監視を強めています。特にMEV(Maximal Extractable Value)は、トランザクションの順序操作などを通じてユーザーに不利益を生じさせ得る具体的リスクとして指摘されており、技術的な緩和策や監督上の注意点が議論されています。これらの分析は、EU当局がDeFiを「技術面」と「制度面」の両側面で注視していることを示しています。

実務上は、どの部分に「中央性(centralised element)」が残っているかが重要な判断軸です。例えば、ユーザー向けのフロントエンドを運営する企業や、運営・アップデートを担う組織が明確に存在する場合、そこに既存の暗号資産サービス規制(CASP等)や開示義務が及ぶ可能性が高くなります。一方で、本当に分散化されていて運営主体が存在しないプロトコルについては、どの法律が適用されるかをめぐる実務的判断が各国で分かれるため、統一的な解釈はまだ整っていません。

参考:

ESMA75-113276571-1510 MiCA Level 2 and 3 measures

The EBA and ESMA analyse recent developments in crypto-assets | European Banking Authority


日本:金融庁が整備を進める一方、法的位置づけの明確化が進行中

日本では金融庁(FSA)が暗号資産やステーブルコイン、RWAなどに関する分析・ガイダンスを継続的に公表しており、業界に対して最新の考え方や課題認識を提示し続けています。FSAは技術的な理解を深めながら、利用者保護や市場の健全性を重視した検討を進めている段階です。

報道では、2025年以降に暗号資産の金融商品としての位置づけを再整理する議論が進んでいます。具体的には、暗号資産に対してインサイダー取引規制を適用する可能性や、法改正を通じて定義や監督枠組みを明確化する案が議論されており、2026年の法案提出を目標としていると報じられています。これが実現すれば、DEX関連トークンの扱いがより明確化する可能性があります。

実務上は、日本で活動する事業者はFSAの公開資料を定期的に確認しつつ、トークンの法的性質評価、インサイダーや情報開示への対応、国内事業者・カウンターパーティとの契約や運用ルールの見直しなどを念頭に置くことが求められます。

参考:

金融審議会「暗号資産制度に関するワーキング・グループ」(第1回)議事録:金融庁

日本、暗号資産のインサイダー取引を禁止する方針:日経 - TodayOnChain

Japan considers new cyptocurrency rules, Asahi newspaper reports | Reuters


DEXは、中央管理者を持たずスマートコントラクトが自動で取引を処理するという構造ゆえに、各国で「どの法律を適用すべきか」が共通の論点になっています。米国ではSEC・CFTCが個別事例を通じて適用範囲を明確化し、EUはMiCAにより枠組みを整えつつ、完全分散型DeFiの扱いは依然として未確定です。日本は2025年以降の法改正に向け、暗号資産の位置づけを再整理する議論が加速しています。いずれの地域でも、中央性がどこに残っているか、利用者保護をどう担保するかが共通した焦点で、DEXは今後も規制実務の最前線に位置づけられ続けるといえます。

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