
Visa・PayPal・JPYCの事例から見る2025年の動向
ステーブルコインは、法定通貨など特定の資産に価値を連動させるよう設計されたデジタルマネーです。暗号資産に見られる大幅な価格変動を抑えながら、ブロックチェーン上で送付できる仕組みとして、暗号資産取引に加え、国際送金や企業間決済、トークン化資産の取引にも利用範囲が広がっています。
なかでも市場の中心を占めるのが、米ドルに連動するUSDTやUSDCです。ドル建てステーブルコインの普及は、既存のドル体制を置き換える動きというより、ドルをブロックチェーン上へ持ち込み、銀行の営業時間や国境に左右されにくい形で流通させる動きと捉えられます。一方、外貨建てステーブルコインが自国通貨の代わりに使われる地域が増えれば、各国の通貨政策や外国為替規制に影響を及ぼす可能性もあります。
VisaやPayPalが決済への導入を拡大
Visaは2023年、USDCによる清算機能をSolanaへ拡大し、加盟店契約会社のWorldpayおよびNuveiとの実証を発表しました。EthereumとSolana上でUSDCを移動させ、VisaNetで承認された法定通貨建て決済の清算に利用する仕組みです。これは利用者が店頭でUSDCを直接支払うサービスというより、決済事業者間の資金移動をブロックチェーンで効率化する取り組みに位置付けられます。
PayPalは2023年8月、米ドル連動型ステーブルコイン「PayPal USD(PYUSD)」を発表しました。PYUSDは米ドル預金や短期米国債などを裏付けとし、PayPalやVenmoで1PYUSDを1米ドルとして売買できるよう設計されています。2024年にはSolanaにも対応し、PayPalのサービス内にとどまらず、対応する外部ウォレットへ移動できるデジタルドルとして利用範囲を広げました。
こうした事例からは、カード会社や決済企業が既存サービスをすべてブロックチェーンへ置き換えようとしているわけではなく、清算や国際送金など、時間とコストがかかりやすい部分からステーブルコインを組み込んでいることが分かります。
RWAと銀行間決済にも広がる利用
ステーブルコインは、国債や不動産、ファンドなどの現実資産をブロックチェーン上で表現するRWA分野でも、購入代金や分配金を移動させる手段として注目されています。資産だけをトークン化しても、決済に従来の銀行送金が必要であれば、取引全体をブロックチェーン上で完結させることはできません。そのため、価格が法定通貨に連動するデジタルマネーは、トークン化資産の決済基盤として重要な役割を担います。
スイスでは2025年、UBS、PostFinance、Sygnum Bankが、銀行預金をブロックチェーン上で扱う預金トークンの実証を行いました。この実証はUSDCによるRWAの配当支払いではありませんが、銀行預金とパブリックブロックチェーンを接続し、法的拘束力を持つ銀行間決済を検証した事例です。ステーブルコインや預金トークンには異なる発行形態があるものの、いずれもオンチェーン取引と既存金融を結ぶ決済手段として開発が進んでいます。
日本円建てJPYCも2025年に発行開始
日本では2023年6月、電子決済手段に関する改正資金決済法が施行され、銀行、資金移動業者、信託会社が一定の条件のもとでデジタルマネー型ステーブルコインを発行できる制度が整いました。
JPYC株式会社は2025年8月に資金移動業者として登録され、同年10月27日から日本円建てステーブルコイン「JPYC」の正式発行を開始しました。新しいJPYCは従来の前払式支払手段「JPYC Prepaid」と異なり、資金決済法上の電子決済手段に該当します。日本円と1対1で発行・償還でき、裏付け資産は預貯金と国債によって発行残高の100%以上を保全する仕組みです。
また、クレジットカード「Nudge」では、カード利用代金をJPYCで支払う仕組みの導入も発表されました。円建てステーブルコインが普及するには、発行できるだけでなく、ウォレット、決済サービス、企業会計などへ接続され、保有したJPYCを実際に利用できる環境を整えられるかが重要になります。
ドルのデジタル化と各国通貨の共存が焦点
USDTを発行するTetherは2025年第1四半期の保証報告で、直接・間接保有を合わせた米国債へのエクスポージャーが約1,200億ドルに近づいたと発表しました。ステーブルコインの発行残高が増えるほど、その裏付けとして米国債やドル建て資産を保有する発行体の存在感も高まります。ドル連動型ステーブルコインの成長は、ブロックチェーン上でドルの利用範囲を広げると同時に、米国債市場との結び付きも強めています。
一方、日本円を含む各国通貨に連動したステーブルコインや、銀行が発行する預金トークン、中央銀行デジタル通貨の検討も進んでいます。今後は一つのデジタル通貨がすべてを置き換えるというより、用途や規制に応じて複数のデジタルマネーが使い分けられる可能性があります。
2025年までの動きを見る限り、ステーブルコインは投機市場の決済手段から、企業間清算や国際送金、トークン化資産を支える金融インフラへと役割を広げています。ただし、発行体の信用、裏付け資産の管理、利用者が額面どおり償還できる仕組みが保たれなければ、安定した通貨として定着することはできません。利用拡大と制度整備が同時に進むかが、次の段階を見極めるポイントになります。

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