WEB3ガイド

USDT特集 1-2 ― 「デジタルドル」が直面する規制と新たな挑戦

センチメンタルな岩狸

センチメンタルな岩狸

0
0

前編では、USDT(Tether)の誕生から仕組み、そして裏付け資産の構成までを見てきました。

2014年に登場したUSDTは、10年以上にわたりステーブルコイン市場を主導してきた存在であり、現在では暗号資産市場の「デジタルドル」として確固たる地位を築いています。

本記事の後編では、USDTを取り巻く各国の規制動向新興国を中心とした実需の広がり、そしてTether社が抱える課題を取り上げ、世界のデジタル経済におけるUSDTの現在地を掘り下げます。


USDTの規制動向 ― USDTを取り巻くルールの現状

USDTは世界で最も流通量の多いステーブルコインであるため、各国の金融当局もその動向に注目しています。

米国では、ステーブルコイン専用の包括的な法規制は整備中ですが、SEC(証券取引委員会)やCFTC(商品先物取引委員会)、各州金融当局が個別に監督を行っています。特にニューヨーク州の金融サービス局(NYDFS)では、Tether社に対して資産報告の正確性や透明性を求める動きが強まっています。

EUでは、2024年に施行された「MiCA(Markets in Crypto-Assets Regulation)」 により、USDTのような電子マネートークン(EMT)の発行者はライセンス登録や準備資産の開示など厳格なルールに従う必要があります。これに伴い、Tether社はフランスやドイツなど一部の欧州地域でUSDTの提供を制限しています。

日本では、2023年6月に改正資金決済法が施行され、ステーブルコインの発行主体は「銀行」「信託会社」「登録制の資金移動業者」に限定されました。そのため、現時点では海外発行のUSDTは国内で直接流通はしていませんが、Tether社も各国の法制度に適応しようとする姿勢を強めており、将来的には日本市場での取引・導入が可能になるのではないかという期待感も広がっています。また、JPYCの発行や三菱UFJ信託銀行の「Progmat Coin」など、円建てステーブルコインの実証実験が進んでおり、国内の制度整備と技術開発が並行して進んでいます。

その他、シンガポールやスイスなどの暗号資産フレンドリーな国ではライセンス取得が前提に比較的自由な運用可能ですが、中国やインドなどでは暗号資産全般に強い制限があり、USDTの利用は制限されています。

参考:

What the New York Department of Financial Services guidance means for stablecoins

EU Approves 53 Crypto Firms Under MiCA Legislation


USDTの市場的地位 ― 新興国が支えるデジタルドルのリアルな需要

2025年11月時点で、USDTの発行残高はおおよそ1,830億ドル規模と推定され、ステーブルコイン市場全体の約70%前後を占めています。これはUSDCやDAIなど、他の主要ステーブルコインを大きく上回る規模で、取引所・分散型金融(DeFi)・国際送金の主要な基軸通貨として活用されています。

USDTがここまで拡大した理由は、単なる取引ツールにとどまらず、世界の資金フローを支える「デジタルドル」として機能している点にあります。特に、法定通貨の価値が不安定な国々(トルコ、アルゼンチン、ナイジェリアなど)では、インフレや通貨切り下げのリスクを回避する手段としてUSDTの利用が拡大しています。トルコではBTCTurkなどの取引所でUSDTの取引量がリラ建てペアを上回る日もあり、給与や送金にも利用されています。アルゼンチンでは、長期インフレ下でUSDTが資金保全手段としてP2Pプラットフォーム上で広く用いられています。ナイジェリアでも、国内送金や輸入決済にUSDTを活用する企業・個人が増えています。

参考:

Tether price today, USDT to USD live price, marketcap and chart | CoinMarketCap

stablecoins_the_emerging_market_story_091224.pdf


USDTが抱える課題とTether社の新展開

USDTが抱える主な課題は、透明性の不十分さと規制リスクです。Tether社は定期的に国際監査法人BDOによるアテステーション報告を公表していますが、これは完全な会計監査ではなく、依然として資産裏付けの正確性について懸念が残ります。

規制面では、米国でのステーブルコイン法制化の議論が2025年に大きく進展しました。同年時点では、GENIUS法案やSTABLE法案の2件が審議されており、GENIUS法案「承認を受けた発行者による発行」を前提とし、銀行に限らず一定条件を満たした非銀行系事業者にも発行を認める柔軟な枠組みを採用しています。また、発行者の規模に応じて連邦または州レベルで登録・監督を受ける二層構造の監督体制が特徴です。この法案は「承認を受けた発行者による発行」を前提としつつ、銀行に限らず、一定の条件を満たした非銀行系事業者にも発行を認める内容です。

これにより、ステーブルコイン発行に関する明確な法的基盤が整いつつあり、USDTの米国内での位置づけにも影響を与える可能性があります。

Tether社はステーブルコイン事業に加え、再生可能エネルギーやRWAへの投資など、新たな事業領域への拡大を進めています(詳しい内容は次回の記事で紹介します)。こうした取り組みを通じて、Tether社は単なるステーブルコイン発行企業から「デジタル金融インフラ企業」への進化を目指しています。

参考:【2025年最新】ステーブルコイン市場の動向・二極化する市場と、米国・日本の規制アプローチ


世界を動かす「デジタルドル」USDT、透明性と規制対応が問われる次のフェーズへ

USDTは、暗号資産市場を支える「デジタルドル」として、世界で最も広く利用されているステーブルコインです。その一方で、透明性や監査体制に対する懸念、各国で進む規制との整合性といった課題も抱えています。今後、USDTがグローバルな決済・資金移動の中心であり続けるためには、透明性の確保と規制適応の両立が不可欠であり、その動向はステーブルコイン市場全体の信頼性にも大きく影響するでしょう。

次回の記事では、実際にUSDTが活用されている事例や、Tether社が展開する新たな事業戦略(RWA投資・エネルギー事業など)に焦点を当て、ステーブルコインが「通貨の未来」としてどう進化していくのかを探ります。

暗号資産仮想通貨Web3web3ステーブルコインStablecoinstablecoinUSDTTetherデジタルドルGENIUSRWA
センチメンタルな岩狸

センチメンタルな岩狸

このニュースをシェア

コメント

0件のコメント
コメントがありません。