WEB3ガイド

オラクル入門 ― Web3を現実世界とつなぐ見えない基盤 【前編】

センチメンタルな岩狸

センチメンタルな岩狸

0
0
サムネ


ブロックチェーンは高い信頼性と耐改ざん性を備えていますが、外部の情報を自力で取得できないという根源的な制約を抱えています。これは欠陥ではなく、コンセンサスの再現性(determinism)を保ち、セキュリティと分散性を維持するために「意図的に閉じた仕組み」として設計されているためです。しかし、実際のアプリケーション開発では、暗号資産の価格、天候、スポーツの結果、高品質なランダム性など、チェーン外のデータが必須となるケースが数多く存在します。そこで重要になるのが、外部データをブロックチェーンに届ける「オラクル」という仕組みです。

本記事の前編では、オラクルの基本概念、その必要性、構造や種類までを整理して解説します。

ブロックチェーンの限界とオラクルの役割 ― チェーンは強固だが、現実世界とつながるにはオラクルが不可欠

ブロックチェーンのスマートコントラクトは自律的に動作しますが、あくまで「チェーン上にすでに存在する情報」だけを使って処理を行います。コンセンサスを成立させるためには、すべてのノードが同じ入力に基づいて同じ結果を出さなければならないという性質上、外部APIやインターネットへのアクセスがあると、この「再現性」は損なわれます。つまり、ブロックチェーン単体では天気、為替レート、スポーツのスコアといった基本的なデータすら取得できず、外部情報を前提とするアプリケーションをそのまま構築することはできないのです。

実際、DeFiでは借入金の清算判断を行うには暗号資産の価格を使う必要があります。スポーツ結果に応じてNFTの状態を変えるアプリを作るなら、試合のスコアがなければ処理を開始できません。また、ゲームで利用されるランダム性はオンチェーンで生成する方法があるものの、公平性や検証性を重視するなら、外部オラクルによる「高品質」なランダム性が使われることが増えています。さらに、RWA(現実資産のトークン化)では、市場データの参照が不可欠になります。こうした事情を踏まえると、オラクルは現在のWeb3エコシステムを支える欠かせない基盤だと言えます。

オラクルとは何か ― 外部情報を安全にブロックチェーンに届ける橋渡し

オラクルとは、外部世界のデータを取得して、それをスマートコントラクトへ安全に届ける仕組みのことを指します。単にデータを転送するだけでなく、そのデータの信頼性を検証したり、複数の提供元から集めて平均化したり、署名や暗号技術で検証するなどのプロセスを経て、ブロックチェーンが外部情報と安全に連携できるようにします。

オラクルを構成する関係者は大きく次の三つに分かれます。

  1. データ提供者:API業者、取引所、気象サービスなど
  2. オラクルネットワーク:データを取得し、検証・集約を行うノード群
  3. スマートコントラクト:集約されたデータを受け取り、アプリケーション処理を行う

ただし、すべてのプロジェクトがこの構造に当てはまるわけではありません。たとえばPythはデータ提供者が直接ネットワークに値を投稿する仕組みを採用し、API3は「ファーストパーティ・オラクル」を理念としています。ここで説明しているのは、あくまで代表的なモデルとしてのイメージです。(後編でより詳細に取り上げます。)

特に重要なのは「検証プロセス」です。もし誤った価格データや偏った数値がスマートコントラクトに渡されてしまえば、DeFiでは不必要な清算や、本来起こるべき処理がされないリスクがあります。スマートコントラクトは与えられた入力のみを基に動作するため、オラクルの信頼性がそのままWeb3サービスの信頼性に直結します。

中央集権型オラクル vs 分散型オラクル ― 設計思想の違いと、それぞれの長所・短所

オラクルには大きく分けて中央集権型と分散型の二つがあります。中央集権型オラクルは、単一のデータ提供者が情報を取得し、ほぼそのままブロックチェーンへ届ける形式です。実装が簡単で、処理が速く、コストも小さいため、小規模なアプリケーションやテスト用途では適しています。しかし、一社のAPIが止まればデータが止まり、提供者が改ざんすればそのままチェーンに反映されるため、単一障害点を抱えやすいという弱点があります。

これに対して分散型オラクルは、複数の独立したノードがそれぞれ外部データを取得し、それらを検証・集約した上でブロックチェーンに届けます。Chainlink、Pyth、Band Protocol、API3 などが代表例です。単一のデータ提供者に依存しないため改ざんに強く、金融サービスの基盤として利用する場合には極めて重要な仕組みになります。ただし、ネットワーク全体での合意や集約が必要になるため、構成が複雑化し、処理速度やコスト面で課題が生じることもあります。

両者は優劣の問題ではなく、用途やリスク許容度に応じた使い分けが重要です。特に多額の資金が動くDeFi分野では、安全性の観点から分散型オラクルが事実上の標準となっています。

オラクルが機能しないと何が起こるのか ― 誤データや停止がもたらすリスクと過去の事例

オラクルが誤作動したり遅延したり停止したりすると、Web3サービス全体に連鎖的な問題が発生します。誤った価格データによって不必要な清算が発生したり、逆に正しく行われていた清算が遅延したりすることがあります。オラクルネットワークの停止によって取引が一部あるいは完全に不可能になるケースもあります。

過去のインシデントでは、DEXの価格が操作され、それを参照したプロトコルが多額の損害を受けるケースが複数発生しました。これはオラクル自体の脆弱性というより、「どのデータを参照する設計にするか」という設計の問題でもあります。スマートコントラクトは入力値をそのまま信じて処理を進めるため、オラクルの品質はWeb3全体の安全性を左右する「見えない生命線」と言えます。(後編でより詳細に取り上げます。)

参考:分散型取引所のKiloEx、オラクル操作攻撃で700万ドルを失う

オラクルはWeb3の根幹を支える重要なインフラ

本記事の前編では、オラクルが必要となる背景、基本的な仕組み、中央集権型と分散型オラクルの違い、そしてオラクルが抱えるリスクについて整理しました。オラクルは、スマートコントラクトが現実世界と接続するための基盤であり、現代のWeb3サービスを支える重要なインフラです。

後編では、具体的なユースケースを取り上げながら、各オラクルプロジェクトがどのように活用されているのか、またどのように差別化されているのかを掘り下げていきます。

Web3ブロックチェーンオラクルスマートコントラクトDeFi分散型中央集権型Web3インフラデータベースWeb3入門ブロックチェーン基礎オンチェーンデータオフチェーンデータ
センチメンタルな岩狸

センチメンタルな岩狸

このニュースをシェア

コメント

0件のコメント
コメントがありません。