
Lumada 3.0と社会インフラ向けAIを強化
社会インフラやデジタル事業を展開する日立製作所は2026年5月19日、米AI企業Anthropicとの戦略的協業を開始したと発表しました。日立が推進する事業モデル「Lumada 3.0」の強化に向け、AnthropicのAIモデル「Claude」を社会インフラ向けソリューションや日立グループの業務改革に活用します。
両社は、日立が電力、交通、製造、金融などの分野で培ってきたIT、OT(制御・運用技術)、プロダクトの知見と、AnthropicのAI技術を組み合わせます。対象はシステム開発や運用、保守、セキュリティなど、正確性や安定性が求められるミッションクリティカルな領域です。
日立は、AIがサイバー空間で情報を処理する段階から、設備や機械などの実世界へ働きかける「フィジカルAI」へ広がっていると説明しています。一方、社会インフラへAIを導入する場合、誤った判断やシステム停止が社会生活へ影響する可能性があるため、業務効率だけでなく、安全性や信頼性を確保する仕組みが重要になります。
今回の協業では、Claudeを単純な文書作成ツールとして導入することよりも、日立が持つ現場データや業務知識と組み合わせ、社会インフラの開発・運用に利用できる形へ整えることが中心となります。
開発・運用とセキュリティでClaudeを活用
両社は、Claudeのコード生成・解析能力と、日立のシステムエンジニアリング力を組み合わせ、顧客企業のシステム開発や運用の効率と品質を高めます。市場環境の変化に応じたサービス開発や、データを活用した業務改革を支援する方針です。
金融、交通、電力などの重要インフラでは、日立のサイバーセキュリティ専門組織「Cyber CoE」とAnthropicが連携し、サイバー攻撃の検知や対応の高度化にも取り組みます。社会インフラでAIの利用範囲を広げるには、AI自体の安全性に加え、外部からの攻撃や誤作動を想定した運用体制が欠かせません。
日立は社会インフラ向けソリューション群「HMAX by Hitachi」にもClaudeを取り入れ、自然言語による設備管理や保全業務の最適化などに活用する計画です。設備の状態や作業手順をAIが整理し、現場の担当者が必要な情報へアクセスしやすくすることで、停止時間や運用コストの削減につなげます。
ただし、発表時点では、Claudeを搭載する個別のHMAX製品、顧客企業、提供開始時期は明らかにされていません。今後は、社会インフラで求められる安全性と精度を保ちながら、構想を具体的な導入事例へつなげられるかが重要になります。
約29万人の業務でAI活用を推進
日立は、グループ約29万人を対象に、全ビジネスプロセスでClaudeなどの先進的なAI活用を進めます。ソフトウェア開発に必要な工数の削減、コーポレート業務の効率化、ハードウェアの保守・運用における障害対応や手順書作成などが対象です。
営業や企画を含む非エンジニア職にもAI活用を広げ、10万人規模の従業員をAIプロフェッショナル人材として育成するプログラムを開始します。日立は自社を最初の利用者とする取り組みを「カスタマーゼロ」と位置づけ、社内で得た知見や課題を顧客向けサービスへ反映する方針です。
自社業務を大規模な検証環境として活用することで、社会インフラへAIを導入する前に、業務効果や運用上の問題を確認できます。社内改革と顧客向け事業を連動させる構造は、未検証のAIを重要インフラへ直接導入するリスクを抑えながら、導入ノウハウを蓄積する狙いがあると考えられます。
一方、約29万人への展開時期や、10万人規模の人材育成を完了する時期、具体的な評価基準は公表されていません。利用人数だけでなく、開発時間の短縮や保守業務の改善など、実際の成果をどのように測定するかも今後の焦点となります。
グローバル専門組織を設立
日立は今回の協業にあわせ、北米、欧州、アジアを横断するグローバル組織「Frontier AI Deployment Center」を設立します。世界各地の顧客へのAI導入支援と、日立グループ内の業務改革を進める中核組織として運営します。
最初の取り組みとして、AnthropicのApplied AI担当者と、日立のIT、OT、プロダクト、セキュリティの専門家による共同チームを始動します。約100人から開始し、将来的には300人規模への拡大を目標としています。
共同チームは、フィジカルAIのユースケース創出、顧客への技術実装支援、ソリューション開発を担当します。日立が持つ業界・現場の知識と、AnthropicのAI開発・活用ノウハウを一つの組織で組み合わせることで、実証実験から顧客導入までの流れを早める狙いです。
今回の協業は、Claudeの社内導入に限定した取り組みではなく、日立自身の業務改革で得た知見をLumada 3.0やHMAXへ反映し、社会インフラ向けAI事業へ展開する構想です。今後は、発表された人員規模やAI活用方針が、具体的な顧客事例や業務改善の成果として示されるかが、提携の実効性を判断する基準となります。
公式資料:HITACHI 公式プレスリリース

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