
HKDAP、機関・企業向けに展開開始
香港のステーブルコイン発行体Anchorpoint Financial Limitedは8月12日、香港ドル連動型ステーブルコイン「HKDAP(HKD At Par)」のPhase 1をBeta Accessとして開始しました。認定ディストリビューターを介して企業や機関、プロ投資家への提供を進め、クロスボーダー決済やトークン化された現実資産(RWA)の決済・流通を中心に商用利用を広げます。
HKDAPは1HKDAPを1香港ドルの額面価値とし、流通額を100%以上カバーする準備資産で裏付ける設計です。初期の認定ディストリビューターにはHashKey ExchangeやOSL Groupが参加しており、HashKeyは対象顧客との初回のHKDAP発行・償還取引を完了しました。
Anchorpointは5月、OSL GroupとEthereumメインネット上でHKDAPの発行から移転、償還までの一連の処理を検証しており、今回のPhase 1はその技術検証を実際の金融・商用サービスへ接続する動きとなります。約3カ月で実証から利用段階へ進んだことで、今後は技術的な成立性に加え、企業や金融事業者から継続的な需要を獲得できるかが焦点となります。
36件の申請から2社、香港が進める規制型市場
HKDAPの展開を読み解くうえで重要なのが、香港で進められてきたステーブルコイン規制です。2025年8月にライセンス制度が施行された後、香港金融管理局(HKMA)には初期申請期間だけで36件の申請が集まりましたが、2026年4月に最初の発行者ライセンスを取得したのはAnchorpointとHSBCの2社でした。
発行者には準備資産や償還体制、リスク管理、技術セキュリティなどに関する要件が課されます。その背景には、ステーブルコインを暗号資産市場内の取引手段に限定せず、決済やトークン化金融など実体経済と結び付く金融インフラへ発展させようとする香港の政策があります。
こうした市場に参入したAnchorpointは、Standard Chartered Bank(Hong Kong)、HKT、Animoca Brandsが2025年に設立した合弁会社です。銀行、通信、Web3を主な事業領域とする企業が設立に関わった構成からも、既存金融とブロックチェーンをつなぐ決済基盤を事業領域として重視する姿勢がうかがえます。
RWA拡大で問われる「決済」のインフラ
HKDAPが初期用途の一つに据えるRWAは、債券やファンドなど現実世界の資産をブロックチェーン上で取り扱える形にする取り組みです。ただ、資産の発行や移転をオンチェーン化しても、代金決済に従来の銀行システムを介せば、稼働時間や処理速度の違いが残ります。このため、資産と同じネットワーク上で移転できるステーブルコインを決済通貨として組み込む仕組みが、RWA市場を拡大するうえで重要なテーマになっています。
AnchorpointはHKDAPについて、24時間365日の移転・決済やトークン化商品の取引、クロスボーダー決済での利用を想定しています。OSLもトークン化ファンドや貿易金融を優先的な活用領域に挙げており、RWA市場では資産をトークン化する技術そのものから、売買後の資金決済までをオンチェーンで完結させるインフラへと競争領域が広がっています。
一方、世界のステーブルコイン市場では米ドル連動型が大きな存在感を持っています。香港ドル建てのHKDAPが独自の需要を確立するには、香港ドルで取引する企業や金融商品との接続を増やし、従来の銀行決済と比較した際の処理速度や利用時間、資金効率などの利点を実取引で示していく必要があります。
認可の次に問われる流動性と流通網
規制当局から発行認可を得ても、ステーブルコインの利用が自然に広がるとは限りません。決済手段として定着するには十分な流動性を確保するとともに、取引所、ウォレット、カストディ、決済事業者など複数のサービスから円滑に利用できる環境を構築する必要があります。Anchorpointが初期段階からHashKeyやOSLをディストリビューターとして組み込んだ背景にも、発行と並行して流通経路を確保する狙いがあるとみられます。
さらに、規制型ステーブルコインでは正規の流通経路を利用者が識別できる仕組みも重要です。Anchorpointがライセンスを取得した2026年4月には、同社と無関係ながら「HKDAP」を名乗るトークンが市場に現れ、HKMAが注意喚起しました。利用範囲が広がるほど、発行体の信頼性を流通の末端まで維持する仕組みが求められます。
ステーブルコインは利用可能な企業や金融サービスが増えるほど決済手段としての利便性も高まるため、ネットワークの規模自体が競争力になりやすい性質があります。そのためHKDAPにとっては、規制要件への対応や準備資産の安全性に続き、利用企業と接続サービスをどの速度で増やせるかが市場定着を左右する要素となります。
香港の競争軸、制度整備から実利用へ
香港ではステーブルコインの制度化と並行し、RWAのトークン化や中央銀行デジタル通貨を含む金融市場のデジタル化が進められています。HKDAPのPhase 1開始は、2025年の制度施行と2026年4月のライセンス付与を経て、規制環境を整える政策段階から、民間サービスが実際の取引需要を獲得する段階へと競争軸が移り始めたことを示す動きです。
その中では、Anchorpointと同時に発行者ライセンスを取得したHSBCの展開も市場形成に影響するとみられます。複数の規制下ステーブルコインが実用段階に入れば、準備資産や償還体制といった安全性に加え、流動性、送金コスト、利用可能なサービス、決済速度、RWAとの接続範囲といった実務上の使いやすさが比較されることになります。
Anchorpointはまず企業や機関、プロ投資家を起点にHKDAPの利用を広げ、その後はリテールへのアクセス拡大も計画しています。今後の評価を分けるのは発行残高の大きさだけではなく、国際決済やRWA取引の中で繰り返し利用される需要を形成し、香港ドル建てのオンチェーン決済を既存の金融サービスへどこまで組み込めるかになりそうです。
公式発表:Anchorpoint

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