
4億ドルの共同出資で「StableFund」を始動
ステーブルコイン「USDT」を発行するTetherと、ロンドン拠点の資産運用会社Fasanara Capitalは2026年9月9日、プライベートクレジットファンド「StableFund」を設立したと発表しました。両社が計4億ドルを共同出資して運用を開始し、外部の機関投資家から別途最大30億ドルを募ります。
StableFundは運用期限を固定しないエバーグリーン型のファンドで、Fasanaraが60カ国超に持つフィンテック融資ネットワークを通じ、短期の資産担保型融資へ資金を振り向けます。融資先には、従来の金融機関から十分な資金を得にくい中小企業や消費者を想定しています。
運用を担うFasanaraが融資案件の組成や審査、資金配分を担当し、TetherはUSDTに関連する融資機会を開拓します。法定通貨との交換に必要なオンランプ・オフランプや資金管理システムとの接続もTetherが支えるため、両社の分業によって、運用会社の融資網とステーブルコインの国際決済基盤を一つの資金供給経路へ組み込む形です。
個別の貿易金融から融資ポートフォリオへ
暗号資産市場では、暗号資産を担保に別の暗号資産を借り入れるサービスが広がってきました。StableFundが投資対象とするのは、中小企業向け融資や消費者信用、売掛債権、サプライチェーン金融といった実体経済の債権です。Fasanaraと提携先のフィンテック事業者が信用審査や債権管理を担い、USDTは国境をまたぐ資金移動と決済の過程に組み込まれます。
Tetherは2024年、ステーブルコインの準備資産から切り離した投資部門を通じ、中東産原油67万バレル、約4,500万ドル相当の取引に融資しました。その後は原油や銅などの商品取引を支援する「Tether TradeFi」を展開しており、StableFundは実体経済向け金融への関与を、個別の貿易取引から複数地域にまたがる融資ポートフォリオへ広げる動きと捉えられます。
Financial Timesによると、USDTの時価総額は約1,830億ドルで、2026年に入ってから伸びが停滞しています。暗号資産取引や国際送金で築いたUSDTの流動性をプライベートクレジットへ接続する今回の構想には、実体経済の融資を通じて新たな利用需要を生み出す狙いもあるとみられます。
Fasanaraの融資基盤とデジタル資産事業を接続
プライベートクレジットは、投資ファンドなどが銀行や公募債市場を介さず、企業へ直接資金を供給する仕組みです。Fasanaraは中小企業向け融資、消費者信用、貿易債権、サプライチェーン金融などを扱い、運用資産は60億ドルを超えます。2025年に公表した複数の資料では、60カ国超で累計1,150億ドル以上の資金を供給し、10万社を超える中小企業を支援したとしています。
同社は2026年3月、世界銀行グループの国際金融公社(IFC)と、新興国の零細・中小企業向け融資戦略を構築する計画も発表しました。フィンテック事業者が取得した売掛債権やデジタル請求書へ投資し、資金不足に直面する企業への融資を拡大する取り組みで、StableFundにも、こうした案件組成や信用審査で築いたネットワークが活用されます。
デジタル資産分野では、2025年1月にPolygon上でトークン化マネー・マーケット・ファンド「FAST」を立ち上げています。プライベートクレジットの運用力とブロックチェーンを使った金融商品の開発経験を併せ持つFasanaraに、USDTの流動性と決済網を持つTetherが加わることで、両社がそれぞれ築いてきた事業基盤を国際融資へ転用する構図となりました。
決済効率の先に残る信用リスク
Tetherの発表資料によると、世界のプライベートクレジット市場は約3兆ドル規模に達し、2029年には5兆ドルへ拡大すると予測されています。世界の中小企業が抱える資金調達不足も推計5兆7,000億ドルに上り、銀行の融資余力が限られる地域では、フィンテック事業者を通じて機関投資家の資金を呼び込む仕組みへの需要が高まっています。
市場が拡大する過程では、企業の債務不履行やファンドからの資金流出を警戒する動きも出ています。USDTによって国際的な資金移動にかかる時間やコストを抑えられたとしても、融資先の返済能力や担保価値に伴う信用リスクは残るため、StableFundの運用成績には審査精度や地域・業種の分散、延滞債権の回収体制が直接影響します。
最大30億ドルの機関投資家資金を呼び込めるかは、USDTを使った決済の効率性に加え、こうした信用リスクをどの程度管理できるかにかかっています。各国の金融規制に対応しながら法定通貨とUSDTを安定して接続し、融資の地域・業種別構成や返済実績を積み上げられるかが、ステーブルコインを実体経済の金融基盤へ広げる試みの成否を分けそうです。
公式発表:Tether

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