
新規登録したアドレスへの送金に待機期間
暗号資産交換業者のコインチェックは2026年9月10日、新しく登録した送金先アドレスへの暗号資産送金を、登録後の一定期間にわたって制限すると発表しました。9月15日からの導入を予定しており、同日以降に登録されるすべての送金先アドレスが対象となります。
アドレスの登録自体は可能ですが、所定の期間が経過するまでは、その宛先への送金を申請できません。制限は自動的に解除されるものの、具体的な待機時間はセキュリティ上の理由から公表されておらず、利用者からの申請による短縮や早期解除にも対応しません。
すでに登録済みのアドレスは制限の対象外となり、従来どおり送金できます。ただし、一度削除したアドレスを再登録した場合は新規アドレスとして扱われるため、過去に利用したことがある送金先でも再登録直後には送金できなくなります。
暗号資産を送らせる詐欺、半年で被害409億円
待機措置の背景には、銀行振込に加えて暗号資産を送らせる詐欺の急増があります。警察庁によると、2026年上半期に確認された「暗号資産送信型」の詐欺被害は3,498件、被害額は409億6,000万円に達しました。前年同期と比べて件数は81.6%、被害額は74.6%増えており、同期間の詐欺被害額全体に占める割合も22.6%まで拡大しています。
被害者が以前から暗号資産を取引していたとは限りません。犯人がスマートフォンの画面共有などを通じ、交換業者の口座開設から暗号資産の購入、外部アドレスへの送金まで具体的に指示する事例も確認されています。この場合、利用者本人が正規の手順で操作しているため、通常の本人認証だけで詐欺による送金を見分けることは困難です。
暗号資産は送金が完了すると取引の取り消しが難しく、犯人側が別のアドレスへ資産を移せば、追跡や被害回復はさらに困難になります。新規アドレスへの送金を一時的に止めることで、資産が外部へ移る前に利用者や交換業者が異常に気づき、確認や相談へつなげる時間を確保できます。
金融庁・警察庁が交換業界へ対策を要請
被害の拡大を受け、金融庁と警察庁は8月6日、日本暗号資産等取引業協会(JVCEA)に対して対策強化を連名で要請しました。口座開設時の不正防止、顧客への注意喚起、出庫限度額の設定、取引・アクセス環境の監視、疑わしい取引を検知した際の迅速な制限など、要請内容は11項目に及びます。
この中には、出庫先情報の事前登録と、新規登録先への一定期間の出庫制限も盛り込まれました。法定通貨の入金後や暗号資産の購入後にも一定期間の出庫制限を設けるよう求めており、口座開設から購入、外部送金までを短時間で進めさせる詐欺に対し、資産移動の各段階で介入する方向が示されています。
具体的な対策の方法や強度は、各交換業者のサービス内容や不正利用の発生状況に応じて判断するとされています。そのため、同様の制限を導入する場合でも、待機時間や追加確認の条件、利用者への案内方法は事業者ごとに異なる可能性があります。
認証強化に送金前の時間差を追加
コインチェックは今回の対応に先立ち、送金時の認証を段階的に強化してきました。2月25日には、個人アカウントの送金先登録でSMS認証を廃止し、パスキー認証または認証アプリを使った2段階認証へ移行しました。6月19日からは一部の個人顧客による送金を対象に、原則としてマイナンバーカードを使う公的個人認証サービス(JPKI)による追加確認も導入しています。
7月31日には、暗号資産の送金と送金先登録、日本円の出金と出金先口座登録などでパスキー認証を必須化しました。こうした認証は第三者によるアカウントの乗っ取りや不正操作を防ぐ役割を担いますが、利用者本人が犯人の指示に従っている場合は、正規の認証を通過して送金が実行される可能性があります。
9月15日から導入する待機措置は、本人認証を終えた後の送金にも時間的な猶予を設けるものです。操作する人物を認証し、必要に応じて追加の本人確認を行ったうえで、新規アドレスへの資産移動を一定期間保留する多層的な対策へ移行します。
GMOコインに続き待機措置を導入
行政要請を受けた対応は、国内の交換業界に広がり始めています。GMOコインは8月29日から、新しく登録した宛先について、審査完了を知らせるメールの送信後24時間が経過するまで暗号資産の送付を制限しています。過去に登録したアドレスを削除し、再登録した場合も対象です。
既存の送金先を対象外とする点はコインチェックと共通していますが、待機時間の扱いには違いがあります。GMOコインは24時間と明示し、会員ページにも送付可能になる時刻を表示するのに対し、コインチェックは具体的な期間を非公開としています。
両社の導入により、金融庁と警察庁の要請が各社のサービス運用へ反映され始めたことが明確になりました。他の国内交換業者にも同様の仕組みが広がれば、初めて登録した宛先へ暗号資産を即時に送れない運用が、業界内で一般化する可能性があります。
利便性と被害防止の両立が焦点
利用者は9月15日以降、初めて送金する宛先を直前に登録すると、予定した時刻に資産を移せない可能性があります。外部取引所や自己管理ウォレットへの送金を予定している場合は、アドレスを余裕を持って登録するとともに、暗号資産の種類や利用するネットワーク、送金先に誤りがないか確認することが重要です。
待機期間には、送金を急がせる詐欺を抑える効果が期待される反面、相場変動への対応や決済、担保の追加など、時間を要する正当な送金にも影響します。事業者側には、制限の対象や解除時期を利用者へ分かりやすく伝え、安全性を高めながら必要以上の混乱を招かない運用が求められます。
今後は、他の交換業者がどの程度の待機時間を設定するかに加え、その間に取引モニタリングや利用者への確認をどのように行うかが注目点となります。送金までの時間を延ばす措置を実際の異常検知につなげられるかが、詐欺被害の抑止効果と利用者の負担を左右することになります。
公式発表:コインチェック

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