
ステーブルコインの活用が資産管理・融資・越境送金へ拡大
今週のWeb3業界では、ステーブルコインを既存の金融サービスへ組み込み、資金管理や融資、越境送金に活用する動きが相次ぎました。
国内では、SBI新生信託銀行が円建てステーブルコイン「JPYSC」の裏付け資産の一部を短期国債で運用し始めました。海外では、Visaがステーブルコイン連動型カードの運営企業向けに、決済債権とオンチェーン融資を組み合わせた資金調達の枠組みを発表しています。
U.S.バンクは独自ステーブルコイン「USBDC」を使い、北米・欧州間で実取引を伴う越境送金を検証しました。USDTを発行するTetherも、資産運用会社Fasanara Capitalとプライベートクレジットファンドを設立し、ステーブルコインの決済網を実体経済への融資に接続しようとしています。本記事では、2026年9月6日から12日までに発表されたWeb3業界の注目ニュース4件を振り返ります。

SBI新生信託銀行、JPYSCの裏付け資産を短期国債で運用
SBI新生信託銀行とSBI VCトレードは9月7日、信託型円建てステーブルコイン「JPYSC」の裏付けとなる信託財産のうち、10億円を日本の短期国債で運用し始めたと発表しました。
9月7日時点におけるJPYSCの発行残高は約201億円相当で、国債への配分は約5%に当たります。SBI VCトレードが運用を指図し、発行者であるSBI新生信託銀行が信託財産の管理と運用を担います。
今回の国債運用は、2026年6月に施行された改正資金決済法と関係法令を反映したものです。制度改正後は一定の要件を満たした場合、信託型ステーブルコインの発行額の50%を上限として、償還期間が3カ月を超えない国債証券や定期預金による運用が認められています。
JPYSCは国内初の信託型円建てステーブルコインで、現在はSBI VCトレードの口座内に限定して先行提供されています。各社は今後、法令や税務実務上の取り扱いを整理し、監督当局の確認を前提としてパブリックチェーン上の流通へ移行する方針です。

Visa、決済データをオンチェーン融資へ接続
Visaは9月8日、VisaNetの決済データをオンチェーン融資基盤と組み合わせ、ステーブルコイン連動型カードの運営企業やフィンテック企業による運転資金の調達を支援する枠組みを発表しました。
Visaの2026年度第2四半期時点の集計では、同社ネットワーク上で160件を超えるステーブルコイン連動型カードプログラムが稼働しています。決済額は前年同期比で約200%増加し、ステーブルコインによるVisaへの決済額も年率換算で200億ドルを超えました。
今回の枠組みでは、オンチェーン信用プラットフォームのCredit Coopが、カード事業者の将来の決済債権を担保とするステーブルコイン建ての融資枠を提供します。Visaの日次決済データとブロックチェーン上の取引記録を照合することで、貸し手が事業の稼働状況に応じて融資規模や信用リスクを評価できる仕組みです。
カード利用に伴う入金はスマートコントラクトを経由し、元本と利息の返済分を自動的に振り分けた後、残額がカード事業者へ送られます。Visaは、日次の純支払額に応じて必要な資金を当日中に自動供給する運用も次の段階に据えており、ステーブルコイン関連事業者への支援領域を決済から資金管理へ広げています。

U.S.バンク、USBDCで北米・欧州間の越境送金を実証
米銀行大手のU.S.バンクは9月9日、独自の米ドル連動型ステーブルコイン「USBDC」を使い、北米と欧州にある同行組織間で実取引を伴う越境送金の実証を完了したと発表しました。取引にはパブリックブロックチェーンのStellarが使われています。
実証では、USBDCの発行、送金、償還に加え、資産の凍結やクローバック機能も検証しました。同行が社内開発した「Digital Asset Platform」を財務、リスク管理、コンプライアンス、業務運用の各システムと連携させ、銀行内部の管理手続きを保ちながらオンチェーンで価値を移転しています。
送金対象は同行内に限られていますが、テスト環境での発行から、既存の銀行システムを介して実取引を処理する段階へ進みました。公開ネットワーク上での送金性能と、規制下の金融サービスに必要な管理機能を一連の流れで確認した形です。
U.S.バンクはUSBDCの応用先として、流動性管理、担保移転、越境トレジャリー業務を挙げています。今後は銀行口座や外国為替、既存の国際送金網との接続を進め、企業取引における処理時間やコストの削減効果を検証する方針です。

Tether、4億ドルでプライベートクレジットファンドを始動
ステーブルコイン「USDT」を発行するTetherと、ロンドンを拠点とする資産運用会社Fasanara Capitalは9月9日、プライベートクレジットファンド「StableFund」を設立したと発表しました。
両社は計4億ドルを共同出資して運用を開始し、外部の機関投資家から別途最大30億ドルを募ります。StableFundは運用期限を固定しないエバーグリーン型のファンドで、Fasanaraが60カ国超に持つフィンテック融資ネットワークを通じ、短期の資産担保型融資へ資金を振り向けます。
Fasanaraが融資案件の組成や審査、資金配分を担当し、TetherはUSDTに関連する融資機会の開拓や、法定通貨との交換に必要なオンランプ・オフランプ、資金管理システムとの接続を支えます。投資対象には、中小企業向け融資や消費者信用、売掛債権、サプライチェーン金融など、実体経済から生じる債権が想定されています。
Tetherはこれまでも、商品取引への融資などを通じて実体経済向け金融への関与を進めてきました。StableFundの設立によって、その対象を個別の貿易取引から、複数地域にまたがる融資ポートフォリオへ広げることになります。
決済手段から金融事業を支える基盤へ
今週取り上げた4件からは、ステーブルコインの活用範囲が送金や決済から、裏付け資産の運用、カード事業者への資金供給、銀行の越境資金移動、実体経済への融資へ広がっていることが分かります。
SBI新生信託銀行は制度改正を受けてJPYSCの資産管理方法を広げ、Visaは既存の決済データをオンチェーン融資につなげました。U.S.バンクは独自ステーブルコインを銀行内部の管理システムと接続し、TetherはUSDTの決済網をプライベートクレジットへ組み込もうとしています。
いずれの取り組みも、ステーブルコインを単独の決済手段として扱うのではなく、既存の金融機関や運用会社、カードネットワークが持つ業務基盤と組み合わせている点で共通しています。ステーブルコインの普及を支える対象も、利用者向けの送金機能から、金融サービスを運営する企業の資金管理や融資へ移りつつあります。
今後は、既存の金融規制やコンプライアンス体制に対応しながら、資産の安全性や償還に必要な流動性、融資先の信用リスクを管理できるかが重要になります。実取引での利用実績を積み重ね、継続的な金融インフラとして定着できるかが次の焦点となりそうです。

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