
AIエージェントがオンチェーン取引を実行
暗号資産ウォレット「MetaMask」を開発するConsensysは8月6日、AIエージェント向けセルフカストディ型ウォレット「MetaMask Agent Wallet」の正式提供を開始しました。ユーザーがあらかじめ設定した権限の範囲内で、AIエージェントが暗号資産のスワップやDeFi取引などを実行できる仕組みで、Claude Code、Codex、OpenClaw、Hermes、OpenCode、CursorなどのAI環境から利用できます。
MetaMaskは6月8日から一部のトレーダーや開発者を対象に先行提供を進めており、約2カ月を経て正式提供へ移行しました。これまでMetaMaskは、ユーザー自身が取引内容を確認し、署名するためのウォレットとして広く利用されてきましたが、Agent WalletではAIに一定の取引権限を委ねる仕組みを加えることで、ウォレットの役割を資産保管や署名から、AIエージェントの権限管理へと広げています。
AIに資産を任せる時代、重要性増す権限管理
生成AIの利用領域は、質問への回答や情報収集から、外部サービスを操作しながら複数の処理を進めるAIエージェントへと広がっています。暗号資産分野でも、市場環境を監視しながら条件に応じてスワップやデリバティブ取引などを実行する活用が進めば、人間が個々の取引をその都度操作する必要は小さくなるとみられます。
ただ、金融資産を扱うAIでは、自動化の範囲が広がるほど権限管理の重要性も増します。どの資産を、いくらまで、どのプロトコルで動かせるのかを明確に制御できなければ、AIの判断ミスや設定不備が直接的な損失につながる可能性があるためです。MetaMask Agent Walletでは、ユーザーが支出上限や利用可能なプロトコル、リスク設定を事前に指定できるほか、標準の「Guard Mode」では条件から外れた取引に追加承認を求めます。一方、承認による中断を抑える「Beast Mode」も用意し、利用者がAIへ委ねる権限の範囲を選べる設計としています。
こうした権限制御に加え、対応するEVM取引では署名前のトランザクションシミュレーション、Blockaidによる脅威スキャン、MEV保護を組み込み、一定の条件を満たす取引には月間最大1万ドルの「Transaction Protection」も提供します。AIによる取引を単純に自動化するのではなく、人間が設定したルールとウォレット側のセキュリティ機能を組み合わせて行動範囲を管理する点が、実運用を見据えた設計の中核となります。
AIウォレット競争、機能競争から権限設計へ
AIエージェント向けの金融インフラを巡っては、MetaMask以外の暗号資産企業も開発を進めています。CoinbaseはAIエージェントによる送金や取引を支援するAgentic WalletsやAgentKitを展開し、Crossmintも支出上限や送金先、人間による承認条件などを設定できるエージェント向けウォレット基盤を提供しており、AIに資産操作を任せるための基盤整備は業界全体で進みつつあります。
そのため、競争の焦点はAIが取引を実行できるかという機能面から、利用者がどこまで安全に権限を委ねられるかという管理面へ移りつつあります。特に金融取引では、AIの判断精度だけを高めても、権限設定や承認フローが不十分であれば実利用にはつながりにくく、自動化を広げながらどこまで人間側の統制を残せるかがサービスの信頼性を左右します。
この文脈で見ると、MetaMaskの参入はAIウォレットという新技術の追加にとどまらず、既存の暗号資産利用者がAIエージェントを使う入口を増やす動きともいえます。これまで開発者向けの実験や専用インフラを中心に広がってきたAIによるオンチェーン取引が、既存ウォレットサービスを通じてより幅広いユーザー層へ浸透するかが今後の焦点になります。
ウォレットはAI時代の「権限管理基盤」へ進むか
MetaMask Agent Walletでは、対応する送金やスワップについて、取引先チェーンのネイティブトークンをガス代として事前に用意せず、移動するトークンからネットワーク手数料を支払える仕組みも採用しました。さらに、ERC-7821を活用した複数処理の一括実行にも対応しており、AIエージェントが一連の取引を継続して処理しやすい環境を整えています。
ただし、操作を自動化できる範囲が広がれば、AIの判断やユーザー自身の権限設定が適切だったかを検証する重要性も高まります。利便性を優先してAIに広い権限を与えれば自動化の効果は高まる一方、意図しない取引が発生した場合の影響も大きくなるため、今後は対応チェーンや取引機能の拡充と同時に、権限設定の分かりやすさや安全性も評価の対象になると考えられます。
MetaMaskの正式参入は、ウォレットが人間の署名を支えるツールから、AIに金融権限を与え、その行動範囲を管理する基盤へと役割を広げる可能性を示しています。AIエージェントによるオンチェーン取引が一般利用へ近づくなか、どこまで自動化し、どこから人間の判断を残すのかという設計が、今後のウォレット競争を左右する重要な論点になりそうです。
公式発表:MetaMask

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