
5機関が標準の開発・普及を支援
三菱UFJ銀行、HSBC、JPモルガンのブロックチェーン事業部門「Kinexys by J.P. Morgan」、仏ソシエテ・ジェネラルのデジタル資産子会社Societe Generale-FORGE、スタンダードチャータードの5機関は11月4日、シンガポールを拠点とする非営利組織「Global Layer One Organisation(GL1 Org)」の設立を発表しました。トークン化金融市場で使う共通標準や実務上の枠組みの開発・普及を支援します。
国・地域ごとに取引基盤が増えるなか、金融機関には、トークン化資産やデジタルマネーを異なる基盤で扱うための仕組みが求められています。GL1 Orgは、シンガポール金融管理局(MAS)が金融機関や政策当局と進めてきた「Global Layer One(GL1)」の成果を引き継ぎ、基盤の信頼性や規制対応に関する共通の考え方を業界主導で広げる方針です。
2024年の組織構想が継続的な運営体制へ
GL1 Orgの設立構想は、MASが2024年6月に公表していました。当時、三菱UFJ銀行やJPモルガンなどは共有台帳基盤の事業、ガバナンス、リスク、法務、技術上の条件を検討しており、MASは次の段階として、共通原則や標準を策定する非営利組織の設立を検討すると説明していました。
その後、MASは同年11月の講演で、有望なトークン化の実証を個別のネットワークから業界全体へ広げるための基盤が必要だと指摘しています。今回の発足は、こうした問題意識のもとで整備してきた枠組みを、継続的に更新し、実務への導入につなげる体制が具体化したものと位置付けられます。
取引基盤の適格性と確認結果の共有を整備
活動の土台となるのは、GL1が整備してきた2つのツールキットです。「市場インフラ(MI)ツールキット」は、国際基準や業界の実務を踏まえて取引基盤の適格性を評価し、設計を支援する枠組みで、ガバナンスやリスク管理、決済などに関する原則と結び付いています。金融機関が基盤を選び、利用する際の評価項目をそろえる役割があると捉えられます。
一方、「プログラマブル・コンプライアンス(PC)ツールキット」は、規制や政策上の要件をデジタル金融基盤に組み込むための枠組みです。2026年6月の関連白書は、基盤ごとの個別実装による開発の重複や、他の機関が必要な確認を行ったかを検証しにくい問題を挙げ、本人確認や制裁対象との照合結果を検証可能な共通形式で扱う設計を提案しています。
この設計では、政策ルール、本人・組織の識別、適合性の判定、取引実行を分離して連携させ、資産の設計を変更せずに規制上のルールを更新することを目指しています。MIが基盤の運営体制を評価する枠組みであるのに対し、PCは取引を認める条件や確認結果を扱うもので、両者は評価と取引処理のそれぞれから基盤間の連携を支える関係にあります。
既存決済網との連携や確認手続きの自動化に先行事例
関連分野では、トークン化資産を既存の金融システムにつなぐ実証が進んでいます。Swift、UBSアセット・マネジメント、Chainlinkは2024年11月、MASの「Project Guardian」の一環として、トークン化ファンドの購入・償還に伴う資金決済をSwift網と連携させる実証の完了を発表しました。ブロックチェーン上のファンド処理と法定通貨による決済を組み合わせ、従来の決済インフラを活用する方法を示した事例です。
規制対応では、国際決済銀行(BIS)と各国中央銀行による「Project Mandala」が2024年10月、国境を越える取引の確認手続きを自動化する技術的な実現可能性を示しました。確認後に生成する証明情報は顧客の元データを開示せずに検証でき、GL1のPC白書でも紹介されています。これらの実証は、既存システムとの接続と規制対応の連携という、実用化に必要な異なる課題に取り組んでいます。
標準を日々の運用へ結び付けられるか
設立機関のスタンダードチャータードは共同発表で、公開型・非公開型のチェーン上に金融基盤が生まれるなか、相互運用性の確保には政策、規制、市場インフラの標準が重要だとの見解を示しました。GL1 Orgは市場インフラ事業者やフィンテック企業などにも参加を呼びかけており、MASも活動と参加者の拡大を支援する考えです。
これまでの経緯と実証を踏まえると、次の課題は、特定の参加者間で成立した仕組みを、より多くの機関が利用できる運用へ広げることです。GL1 Orgの進展を測るうえでは、MI・PC両ツールキットの採用範囲と、異なる基盤で規制対応の確認結果を検証・利用する具体例が重要になります。標準の策定と日々の取引実務を結び付けられるかが、商用化に向けた評価の分岐点となります。

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