
Crypto Credentialを国際決済ネットワークに導入
決済大手のマスターカード(Mastercard)とステーブルコイン決済基盤を手掛けるBorderless.xyzは2026年8月5日、「Mastercard Crypto Credential」を活用した共同実証を発表しました。Borderlessのネットワークに参加する決済事業者の確認情報を共有し、取引承認やコンプライアンス、リスク管理に組み込むことで、複数国・複数事業者をまたぐステーブルコイン決済の運用効率を高められるかを検証します。
Mastercard Crypto Credentialは、ブロックチェーン上の取引参加者を確認し、一定の基準に沿った取引を支援する仕組みです。認証済み利用者が複雑なブロックチェーンアドレスに代わるエイリアスを利用できるほか、受取側が対象資産やブロックチェーンに対応しているかの確認、Travel Ruleに必要な情報交換などを支援します。
実証にはBorderlessのネットワークに参加するInfinia、Walapay、Koyweが加わり、Crypto Credentialから得られる情報を実際の取引承認やコンプライアンス業務に適用します。単にオンチェーンで資金を移動できる環境を整えるのではなく、ネットワークに参加する事業者同士がどのような共通基準で相手を確認するかまで対象に含める点に、今回の実証の意義があります。
ネットワーク拡大で増す確認コスト
ステーブルコインは24時間稼働するブロックチェーンを利用できるため、クロスボーダー送金や企業間決済の選択肢として存在感を高めています。一方で、接続する国や事業者が増えるほど、各社は新たな取引相手について本人・事業者確認や規制対応状況を確認する必要があり、技術面で決済網を広げやすくなっても、運用面の負担が同じペースで減るとは限りません。
Borderlessは、ステーブルコイン、法定通貨の銀行送金網、外国為替などを一つのネットワークで接続し、複数地域への資金移動を支援しています。こうした仕組みでは接続先が増えるほど利用可能な決済経路も広がりますが、その一方で、相手事業者を個別に審査する作業が積み重なれば、ネットワーク拡大そのものが新たなコスト要因になります。
そこで両社は、一度確認された参加事業者に関する信頼情報をネットワーク内で活用し、接続先を追加するたびに生じる重複確認を抑えられるかを検証します。国際ステーブルコイン決済の競争は、送金速度やコストといった処理性能に加え、参加事業者を安全かつ効率的につなぐ運用基盤の整備へ広がりつつあります。
Mastercard、オンチェーン決済への関与を深める
今回の協業は、マスターカードが進めるデジタル資産戦略の流れに位置付けられます。同社は2026年3月、暗号資産関連企業や金融機関など85社超が参加する「Crypto Partner Program」を立ち上げ、Borderless、Circle、Ripple、PayPal、Binance、Fireblocksなどとクロスボーダー送金やB2B決済、決済・清算分野で連携を広げています。
同じ3月には、ステーブルコイン決済インフラを手掛けるBVNKを最大18億ドルで買収する契約も発表しました。BVNKはステーブルコインと各国の法定通貨決済網を接続する技術を持つため、買収が進めば、マスターカードはオンチェーン上の資金移動と既存金融網との接続を自社の決済基盤に組み込みやすくなります。
こうした投資や提携を踏まえると、マスターカードはステーブルコインをカード決済と競合する外部技術として捉えるより、自社ネットワークへ接続する新たな決済レールとして扱う姿勢を強めているとみられます。Borderlessとの実証も、資金移動の処理にとどまらず、参加事業者の認証やコンプライアンスまで含めたインフラ層へ関与を広げる動きの一つといえます。
競争軸は「発行」から「接続」へ
ステーブルコイン市場では、これまで発行残高や取引量、送金コストが成長を測る指標として注目されてきました。しかし、金融機関や企業による利用が広がるにつれ、規制対応、参加事業者の確認、既存銀行網との接続といった周辺インフラの整備が、実用化の速度を左右する要素になりつつあります。Visaを含む既存の決済大手も関連サービスへの関与を強めており、新旧の決済網を誰が安全につなぐかという競争が鮮明になっています。
一方、小売決済まで視野を広げると、消費者保護や紛争処理、誤送金や取消不能取引への対応など、既存カード網が長年構築してきた仕組みとの差は残ります。ステーブルコインの技術的な利便性が高まるほど、利用者や企業が安心して参加できる認証、ルール、責任分担の設計が重要になり、その領域は決済ネットワーク企業が強みを持つ分野でもあります。
マスターカードにとって、カード決済で培った認証やコンプライアンス、ネットワーク運営のノウハウをオンチェーン決済へ展開できるかは、今後の競争力を左右する要素になります。Borderlessとの共同実証が実運用へつながれば、ステーブルコインを巡る競争は「どの通貨が多く使われるか」という発行体中心の争いから、「誰が決済網の信用と接続を担うか」というインフラ競争へ一段と広がる可能性があります。
公式発表:Borderless

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