
投資・事業開発から、円建てのAI決済実証へ
ホットリンクグループのベンチャーファンドNonagon Capitalは2026年3月27日、Startale Groupと事業提携を開始したと発表しました。両社は、日本円建て信託型ステーブルコイン「JPYSC」を使った実証実験と事業開発を共同で進め、AIエージェントが購買やデータ利用に伴う支払いを実行する「Agentic Payment」の用途開発を目指します。
Nonagon Capitalは米サンフランシスコ・ベイエリアを主な拠点とし、北米とアジアをつなぐWeb3投資を手掛けています。同社は2月13日にAIエージェント決済を重点テーマに据え、投資機会の探索と事業開発を始めたと公表していました。今回の提携は、その方針を円建ての決済基盤と接続する段階と位置付けられます。
役割分担では、Nonagon Capitalが投資ネットワークと事業開発の知見を生かしてユースケース設計やパートナー連携を主導し、StartaleがJPYSCの設計・開発を担う技術基盤として決済インフラを構築します。投資先の探索と並行して、国内企業が実際に使う場面を組み立てる取り組みです。
JPYSCの信託型設計と、送金上限の位置付け
JPYSCは、SBIグループとStartaleが共同開発を進める円建てステーブルコインです。新生信託銀行が「3号電子決済手段」として発行を担い、SBI VCトレードが主要な販売パートナーとなります。2月27日に名称とロゴが発表され、当時は規制・制度への対応体制の整備を前提に、2026年度第1四半期の正式ローンチを目指していました。
この設計は、信託で管理する裏付け資産と、保有者の償還請求を結び付けるものです。金融庁の制度整理では、第二種資金移動業者の送金には1件100万円の上限がある一方、信託銀行による3号電子決済手段には同じ送金上限規制は設けられていません。発行主体と法的な仕組みを区別することで、大口の企業間決済も視野に入る理由が理解できます。
ただし、法令上の送金上限と、サービスで実際に利用できる条件は分けて捉える必要があります。発行・流通・償還の仕組みと、ウォレットや決済サービスの運用条件が整って初めて企業の業務に組み込めるため、実証では技術的に送金できることに加え、既存の会計や資金管理と接続できるかも重要になると考えられます。
小口課金を自動化する用途と、既存決済との関係
発表で想定されている用途には、AIエージェントが商用コンテンツやデータを必要に応じて取得し、その費用を少額決済で支払う場面があります。APIを介したエージェント間の役務提供や、スマートコントラクトによる条件付き支払いも挙げられました。いずれも、調査や情報取得から支払いまでをプログラムで連携させる構想です。
例えば、調査業務の途中で必要なデータを取得するたびに支払う方式なら、利用量に合わせて費用を計上するサービスを設計しやすくなります。円建ての決済を使うことには、国内企業の予算や請求額と対応させやすい利点があると考えられます。ただし、小口課金の採算性は送金手数料や処理速度、資金の出し入れにかかる費用にも左右されるため、低コスト化の効果は具体的な利用条件の下で検証する必要があります。
AIによる購買の自動化には、既存の決済網も対応を進めています。Visaは2025年4月、AIエージェントによる購入を支える「Visa Intelligent Commerce」を発表しました。この流れの中で、JPYSCを使う取り組みは、円建てのオンチェーン決済と外部サービスを接続する選択肢として位置付けられます。用途ごとに既存決済と比べた導入のしやすさを示せるかが、実用化の焦点になります。
KYAで認証をつなぎ、支払い権限の設計へ
Nonagon Capitalは、分散型ID(DID)と検証可能なクレデンシャル(VC)を利用する「KYA(Know Your Agent)」も構想として示しています。ウォレットにひも付いたAIエージェントが証明情報を提示し、複数のオンチェーンサービスで認証手続きを簡略化する考え方です。VCは発行者の証明を機械的に検証するための仕組みで、W3Cは2025年5月に関連標準のバージョン2.0を勧告しています。
この認証の仕組みを決済につなぐ際には、エージェントの識別と、支払いを許可する範囲を併せて設計することが重要です。企業がAIに購入を任せるなら、利用目的や予算、取引相手に応じた権限を設定し、何にいくら支払ったかを追える必要があります。認証情報をサービス間で受け渡す仕組みと、資金を動かす際の承認・記録を組み合わせることが、業務利用の信頼性に関わります。
両社は今後、国内での実証、企業向けユースケースの設計・提案、バリデーターやDeFi運用の知見を使った技術検証を進める予定です。次に注目されるのは、データ購入などの具体的な業務で、決済費用の削減や処理の自動化がどこまで有効に働くかです。支払い権限と会計処理まで含めて実証できれば、企業がAIに任せられる業務の範囲を広げる足掛かりになりそうです。

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