
AIに取引を任せるための操作環境と実務課題を研究
暗号資産取引サービスを運営するコインチェックは2026年5月28日、Pacific MetaグループのKomlock labと、AIエージェント向けCLIに関する共同研究の開始を決定したと発表しました。利用者の指示に基づいてAIが取引を実行する将来を見据え、取引モデル、既存規制との整合性、リスク管理・内部管理体制を検討します。
AIエージェントは、目標に沿って手順を組み立て、外部のツールを使いながら作業を進めるソフトウエアです。CLIは文字によるコマンドで操作する仕組みを指し、AIが取引や決済に必要な機能を呼び出すための接点になります。利用者が画面上で注文や支払いを操作する取引に対し、AIへ任せる範囲をどう定め、安全に実行させるかが研究上の論点になります。
両社は、海外の資産運用・決済・注文執行の事例に加え、EC、デジタルコンテンツ、ゲームなどの自動購買も調べる方針です。暗号資産取引所の運営や規制対応に関するコインチェックの知見と、Komlock labの開発技術を組み合わせ、国内で実装を検討する際の枠組みを整理します。対象を売買に限らずサービスの購入まで広げることで、AIによる価値交換を複数の用途から検証する計画です。
少額・高頻度の支払いが、決済基盤に新たな課題
AIが外部サービスを使って作業を進める場合、有料のデータ取得や計算処理を繰り返し利用する場面が想定されます。その都度、利用者が支払いを承認する仕組みでは、処理の途中で人の操作を待つ必要があります。小さな金額の支払いが高頻度で発生するなら、承認手順とともに、支払い額に対する手数料の割合も重要になります。
海外では、こうした利用を支える共通規格の整備が進んでいます。Coinbaseは2025年5月、ウェブ通信で使うHTTP上にステーブルコイン決済を組み込む「x402」を公開しました。StripeとTempoも2026年3月、AIエージェントなどがプログラムを通じて支払うための「Machine Payments Protocol(MPP)」を発表しており、サービス利用と決済を接続する取り組みが広がっています。
コインチェックとKomlock labは、x402などのオープンソースソフトウエアも研究し、用途を検討する研究会を実施する方針です。海外の仕組みを国内へ取り入れる際には、技術的に送金できることと、利用者の権限や取引記録を適切に管理できることを合わせて検討する必要があります。取引所が研究に参加する意義は、決済技術の検証に、実際の金融サービス運営で求められる管理の視点を持ち込む点にあります。
Kovaはウォレット・署名・決済への接続を担う
Komlock labは同日、AIエージェント向け自律決済基盤「Kova(β)」を公開しました。AIがウォレット、認証、署名、決済へアクセスする実行環境を提供し、Claude Code、Codex、OpenClawなどのAIエージェントへの対応や、開発者が機能を追加・公開できる設計を掲げています。決済の技術連携先としてTempoも挙げています。
同社はKovaの基盤構築に続き、企業のAPIや機能を取り込み、AIがサービスを見つけて選び、購入できる環境を整える構想です。5月21日にはPacific MetaがKomlock labの完全子会社化を発表しており、AIとブロックチェーンを組み合わせた研究開発・事業開発体制の強化が、製品公開に先行していました。
コインチェックとの共同研究は、Kovaの製品開発から独立して進める取り組みです。KovaがAIによる支払いを実行する技術基盤を担うのに対し、共同研究は取引や管理の枠組みを検討します。この関係を踏まえると、製品を通じた実装の検証と、取引所の知見を使った実務・制度面の研究を並行させる動きとして捉えられます。
利用者の意図と実際の支払いを、どう一致させるか
AIに取引を任せる際、利用者が伝える目的と、個々の取引条件は必ずしも同じ細かさではありません。例えば、必要なデータを集めるよう依頼した場合も、有料サービスを使うか、いくらまで支払うか、どの相手と取引するかは別途定める必要があります。支出上限や取引先の範囲、追加承認が必要になる条件を明確にすることが、安全な権限委譲につながります。
取引後の検証も重要です。AIがどの指示を受け、何を根拠にサービスを選び、どの支払いを実行したかを追える仕組みがあれば、意図と異なる取引が起きた際の原因を調べやすくなります。こうした観点から、共同研究で挙げられたリスク管理や内部管理は、AIの利用範囲を広げるための実務上の土台といえます。
Komlock labは、Kovaにサービスを取り込むための実証パートナーとの連携を進める方針です。今後は、どの業務で人の操作を減らせるのかを、費用や管理負担も含めて示せるかが注目されます。利用者が委ねた権限の範囲で取引が完了し、その経過を確認できる設計へ進めば、AIによる自動購買や決済を実務に取り入れる道筋も具体化していきそうです。
公式発表:Komlock lab PR TIMES

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