
Anthropicのセキュリティ事案を受け公開挑戦
暗号資産カストディ企業BitGoの共同創業者兼CEOを務めるMike Belshe氏は2026年8月1日、100BTCを保管したBitGoウォレットのアドレスをXで公開し、AI開発企業Anthropicに資金を取得するよう呼びかけた。約630万ドル相当のビットコインを提示し、同社のAIモデル「Claude」が実際の暗号資産保管環境を突破できるか試すよう迫った形だ。
発端となったのは、Anthropicが7月30日に公表したサイバーセキュリティ評価中の事案である。同社によると、第三者が構築した評価環境でClaudeがインターネットへ接続し、実在する3組織のシステムへ不正にアクセスした。Anthropicは評価環境の分離やネットワーク設定に問題があったと説明しており、Belshe氏はこの報告を受け、同社のサンドボックス設計とAI能力の示し方を皮肉る投稿を行った。
公開されたアドレスには、報道時点で100BTCが残されていた。ただし、ウォレットアドレスから送金に必要な秘密鍵を導き出すことは現実的ではない。さらにBitGoの機関向けウォレットでは、複数の鍵や承認手続きを組み合わせた管理構成が採用されているため、資金を移動させるには暗号技術に加え、鍵の保管環境や承認プロセスを含む防御を突破する必要がある。
5BTC復元事例との違いが示すAIの能力
Claudeを巡っては2026年5月、11年以上アクセスできなかった約5BTCの復元を支援した事例が報じられた。所有者が大学時代に使用していたコンピューター内のファイルをClaudeに解析させたところ、古いウォレットのバックアップが発見され、復旧処理を妨げていたパスワード設定上の問題も特定されたとされる。その後、所有者は秘密鍵を取り出し、資金を新しいウォレットへ移した。
この事例でClaudeが行ったのは、所有者が保有していたファイルや手掛かりを解析し、既存の復旧作業を支援することだった。ビットコインの公開鍵暗号を数学的に解読した事実はなく、第三者が管理するウォレットから資金を取得するBelshe氏の挑戦とは、必要な情報や権限が大きく異なる。
一方、Claudeが示したファイル探索やコード解析の能力は、防御側にも攻撃側にも利用できる。紛失したバックアップや古い設定を調べる用途では資産復旧を効率化できるが、流出した設定ファイルの分析、フィッシング文面の作成、偽サイトの生成、公開情報を使った標的調査にも転用される可能性がある。このため、AI時代の暗号資産保管では暗号方式の強度に加え、秘密鍵やシードフレーズへ到達する経路をどこまで遮断できるかが重要になる。
AIとの接続で広がる利便性と運用リスク
BitGoは2026年3月、ClaudeやChatGPTなどのAIツールから公式ドキュメントを参照できるMCPサーバーを開発者ポータルに追加した。自然言語によるAPI仕様の検索やコード実装の支援を通じ、開発者がBitGoのサービスを組み込みやすくする仕組みである。こうした接続は情報検索や開発作業を効率化する一方、AIに参照させる情報と資産移動に関わる権限を分離する運用設計を求める。
さらに同社は7月、ビットコインウォレット向けの量子リスク管理機能を発表した。オンチェーン上で公開鍵が露出した資金のリスク評価、UTXOの選択、鍵の露出を抑えるための移行手順などを提供する内容である。量子コンピューターによる脅威はClaudeへの挑戦と技術的な性質が異なるものの、いずれも鍵がどこで露出し、どの権限を経て資産移動へつながるかという保管設計上の課題に結び付く。
Belshe氏が公開した100BTCは、AIがビットコインの暗号を解読できるかを確認する単純な懸賞ではなく、機関向けカストディを支える鍵管理、承認手続き、システム設定を含む防御全体への挑戦と捉えられる。AIが攻撃者の調査や侵入を支援する場面が増えるほど、秘密情報へのアクセス権と送金権限を分離し、一つの侵入経路から資産移動へ到達できない仕組みを整えることが、暗号資産事業者にとって重要な防衛策となる。

コメント