
Visa Directにオンチェーン送金を接続
決済サービスを手掛けるVisaは8月5日、リアルタイム送金ネットワーク「Visa Direct」で、ステーブルコインによる送金と事前資金供給に対応すると発表しました。デジタル資産インフラを手掛けるzerohashが基盤を提供し、対象顧客は受取人へのステーブルコイン送金に加え、支払いに必要な資金をあらかじめ確保する「Merchant Prefunding」にもステーブルコインを活用できるようになります。
Visa Directは195以上の国・地域で180億以上の送金先につながるグローバルネットワークで、zerohashはその裏側でオンチェーン処理や複数ブロックチェーンへの接続、規制・コンプライアンス関連の基盤を担います。このためVisaは、新たな暗号資産送金網を別に構築するのではなく、既存の国際送金インフラにブロックチェーン上の資金移動手段を組み込む形で機能を拡張することになります。
この構造は、ステーブルコインの位置付けが暗号資産取引の補助的な資産から、企業決済や国際送金を支える金融インフラへ移りつつある流れとも重なります。Visaにとっても、ステーブルコインを独立したサービスとして扱うより、既存ネットワークの機能を補完する決済レールとして取り込む方向が鮮明になってきました。
国際送金の課題は「速度」から「資金配置」へ
企業がステーブルコインに関心を寄せる背景には、国際送金に伴う処理時間だけでなく、資金をどこに、どれだけ置いておくかという流動性管理の課題があります。複数の国や通貨をまたぐ支払いでは、金融機関の営業時間や為替市場の稼働時間、決済処理のタイミングが異なるため、企業は各地域で必要になる資金を前もって確保するケースがあります。その結果、すぐには使われない資金が複数拠点に滞留し、運転資金の効率を低下させる要因になることがあります。
そこで意味を持つのがMerchant Prefundingへのステーブルコイン活用です。24時間移転できるオンチェーン資産を事前資金供給に利用できれば、企業は支払い直前まで資金を集約し、必要に応じて各地域へ移すといった運用を取りやすくなる可能性があります。つまり、ステーブルコインの価値は単に送金が速いことにあるのではなく、資金を固定する時間や場所を減らし、財務部門による流動性管理そのものを柔軟にできる点にあります。
ただし、実際の導入効果は一律ではありません。法定通貨との交換環境、利用するブロックチェーン、各国の規制や会計処理などによって運用条件は大きく異なるため、企業にとっては既存の銀行送金を完全に置き換えるというより、どの送金区間や財務業務に組み込めるかを見極める段階にあると考えられます。
決済大手の競争は送金網の内側へ
Visaは2026年に入り、ステーブルコイン関連の取り組みを段階的に広げてきました。1月にはBVNKとの連携を通じてVisa Directでのステーブルコイン送金に関する取り組みを公表し、7月には金融機関やフィンテック企業向けの「Visa Stablecoin Platform」を発表しています。今回のzerohashとの連携は、こうした個別の実証や基盤整備を、既存の送金ネットワークへ接続していく流れの一部と位置付けられます。
一方で、競合するMastercardも同じ領域への投資を強めており、2026年3月にはステーブルコインインフラ企業BVNKを最大18億ドル規模で買収すると発表しました。これまで決済大手はブロックチェーン企業との提携や実証を重ねてきましたが、競争の焦点は徐々に、誰がステーブルコインを試すかではなく、誰がその技術を自社の送金・決済網の内部へ組み込むかへ移っています。
この動きは、ステーブルコインと既存カードネットワークが必ずしも代替関係にないことも示しています。VisaやMastercardがオンチェーンの資金移動を自社ネットワークと接続できれば、従来の加盟店・金融機関との関係を維持しながら、新しい決済レールを取り込むことができます。結果として、ステーブルコインの利用が広がるほど、既存の大手決済事業者がその入口や流通経路を押さえる構図が強まる可能性があります。
実需を左右するのは企業財務への定着
ステーブルコインはこれまで暗号資産取引での利用が目立っていましたが、足元では国際送金、企業間決済、給与、取引先への支払い、財務部門の資金移動といった実務用途への展開が進んでいます。なかでも企業間送金や事前資金供給は、一般消費者向け決済ほど表面には出にくいものの、継続的かつ一定規模の資金移動が発生するため、ステーブルコインの実需を測るうえで重要な領域といえます。
その意味で、業界の論点は「ステーブルコインを決済に利用できるか」という技術的な可否から、「どの業務で既存の送金手段より高い効率を生み出せるか」へ移りつつあります。とりわけ企業財務では、送金速度だけでは差別化になりにくく、資金を必要な場所へ必要なタイミングで移せるか、余剰資金の滞留をどこまで減らせるかが採用を左右する要素になりそうです。
今後は、Visa Directでの利用企業や対応地域、対応資産がどこまで広がるかに加え、Merchant Prefundingを含むステーブルコイン運用が企業の通常業務にどこまで定着するかが焦点になります。VisaやMastercardの既存送金網とオンチェーン決済が本格的に接続されれば、ステーブルコインは暗号資産市場の内部にとどまらず、国際送金や企業財務を支えるインフラの一部として存在感を高めていく可能性があります。
公式発表:zerohash

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